以下は、2013年10月に書いた文章です。この頃、いわゆるBOPビジネス支援という業務の関係で、ジャカルタやスラバヤの低所得層(以下、BOP層と記述)のご家庭を訪問することがよくありました。
ちなみにBOPとはBottom of Pyramidの略で、BOPビジネスとは、途上国の低所得者層を対象とし、現地の貧困における諸問題の改善と利益確保の両立を目指す事業活動を指します。
もう10年近く前の話ですが、今、読み返しても、興味深い話が見受けられます。折に触れて、そのいくつかを加筆修正のうえ、再掲していきます。
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家庭訪問(2013年10月30日)
南ジャカルタ市P地区のR氏(50歳)宅を訪問
●R氏について
R氏は、中ジャワ州南部の農村出身である。小学校を卒業した後、知人に付いてジャカルタに出てきた。それ以来、日雇いの建設労働に従事している。
契約期間は1週間のこともあれば、1ヵ月続く場合もある。ある建設現場の仕事が終われば、仲間の口コミ情報を頼って、次の建設現場の仕事を探す、という日々である。前年(2012年)に比べると、今年(2013年)は仕事の数が若干減っているという。
●世帯収入は生活できるギリギリの水準
R氏は、建設労働の仕事で1日に4~6万ルピア(約350~530円)の賃金を得る。住宅建設の場合は1日7万5000ルピアと(約660円)とやや稼ぎがよい。しかし、このなかから交通費や食事代を支出するため、手取りで家に持ち帰れるのは6割程度に留まる。建設労働のオファーがない日は収入もない。賃金は日払いである。
妻は、毎日ではないが、近所の家の掃除や洗濯を手伝うことで、1日1万ルピア(約90円)程度の収入を得ている。毎日仕事があると仮定しても、二人の収入合計は1ヵ月に1万円程度にしかならない。
R氏の家の入口
●家族構成
ジャカルタでは妻1人との2人暮らしである。子どもは中学生と高校生の2人で、中ジャワ州の農村にある実家に預けている。
実家は農家で、実家の近くに親戚が5世帯あるが、いずれも土地なしの農業労働者である。なかには、スマトラやカリマンタンへ移住した者もいるが、まだ成功者は現れていない。
実家に残した子どもの学費として、毎月20~30万ルピア(約1750~2650円)を仕送りしているが、これだけで1ヵ月の収入の約2~3割を占める。仕送り資金が足りない場合には、友人・知人から借金をしたうえで、仕送りする。
●狭く薄暗い住居
この家には1989年頃から住んでいる。当初は借りていたが、2004年に購入した。購入資金の額は明らかにしなかったが、自ら100万ルピア(約880円)を出し、残りは様々な人から資金を出してもらった。
部屋は寝室がメインで、寝室の隅に台所スペースがある。全部で15~20平方メートル程度の狭くて薄暗い、掘立小屋のような家である。
寝室。ベッドは意外に立派。
沐浴スペース
●ありあわせの食事
R氏夫妻の食事は質素で、とにかく、ありあわせのものを食べるという形である。台所スペースには、ニンニクしか見当たらず、冷蔵庫も保有していない。
パサール(市場)へ買い物に行くことはほとんどなく、家の近くのワルン(商人が余所からやってきて決まった場所に出す店)でその日に食べる分の野菜などを買う。お金がないときには、ツケ買いをする。
鶏肉などは、特別に収入が入ったときなどに食べる程度で、普段は、豆腐やテンペがタンパク質摂取源である。
R氏は、朝、建設現場へ出かける前にお茶を飲み、帰宅前にワルン・テガル(テガル出身者が多く経営する軽食を出す屋台)にて、8000ルピア(約70円)のご飯+おかず3種類程度の定食を食べる。帰宅後は食事を摂らず、お茶を飲む程度である。1日に1~2食程度の様子である。
台所スペース
台所スペースの鍋や釜
(以下に続く)
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