よりどりインドネシア

2022年11月23日号 vol.130

ウォノソボライフ(57) 閑話休題:雨季の噂話(神道有子)

2022年11月23日 17:24 by Matsui-Glocal
2022年11月23日 17:24 by Matsui-Glocal

去る11月18日の夜、ウォノソボの図書館に面した壁が崩落したとのニュースが報じられました。その日は午後から激しい雨が続いており、その影響で長さ70mに及ぶ壁のヒビが刺激されて崩落したとみられています。死亡者こそ出なかったものの、下敷きになり病院に運ばれた人、大きく損傷した車やバイク、移動屋台などの被害が出ました。

建造物の崩壊は珍しいですが、激しい雨による災害は雨季にはつきものではあります。県内でも特に降雨量の多い地域などでは今年も土砂崩れがあちこちで起こっているようです。

気象気候地球物理庁(BMKG: Badan Meteorologi, Klimatologi, dan Geofisika)も、今年は例年よりも雨季の始まりが早く雨量も多いと発表しました。洪水に対する警戒が呼びかけられています。雨は天からの恵みではありますが、こと激しく何時間も降り続くような雨は農作物にさえ被害をもたらすこともあります。

そんな日々での人々の話題にのぼったちょっと不思議な噂話です。

●アンクリンガンにて

ある日、アンクリンガン(Angkringan 食事をする屋台)に顔見知りで集まってお喋りしていたとき、なぜか「インドネシア内でどの地域の黒魔術が一番強いか」という話になりました。

ご存知の通り、インドネシアでは、黒魔術は子供騙しではなく実在するもの、と捉えられています。インドネシア人に恨みを買ってはいけないよ、黒魔術で呪われてしまうからね、と在インドネシア邦人から聞くこともありました。

宗教上は迷信を信じてはいけない、とされますが、「それはそれとして現実にあるからね(どうしようもないよね)」といったニュアンスで語られるように感じます。

「黒魔術といえばカリマンタン島のダヤック人とバリ島ね。あそこには強力な魔術師が多いよ」

そう話すのは、自身もカリマンタン出身のディヤさん。地元で何度も不思議な体験をしたといいます。

「人間の遺体から作りだす油があるの。あるとき私の友人が事故に遭い、骨まで見えるようなケガをした。彼はその油を患部に塗って、2日もしないうちにケガを完治させてしまったよ」

「でも人間の遺体から作られているから、ムスリムにとってはハラム(イスラム教で禁忌とされている物事)なの。私なんか触ることもできない」

ディヤさんの話を、その場にいたスワルトさんが肯定しました。スワルトさんはジャワ人ですが、カリマンタンの炭鉱で働いていたことがあります。

「その油を買わないかと持ちかけられたことあったよ。人間から作られていたなんて知らなかったけど。たしか、死や厄災を跳ね除ける力があるから、王国があった時代には戦地に赴くのに携帯していたものだったって」

「そう、武器に当たっても無傷でいられるんですって」

次々に飛び出す不思議な話に、私はひたすら「そうなの???」と相槌を打ちながら聞き入りました。

「前任の県知事に聞いたけど、今の県知事付きの雨師はあまり良くないって。大事な行事で何回も雨にさせちゃってるんだよ」

ウィディさんは、雨師―パワン・フジャン(pawang hujan)に言及します。パワン・フジャンは雨をやませる力を持つとされる人たちで、雨季の長いインドネシアらしい職業といえます。

「雨師がどうやって雨をやませてるか知ってる?おしっこを我慢するんだよ!雨をやませておきたい間はずっと我慢しなきゃいけないから、仕事の前にはあまり水を飲まないようにするんだって!」

パワン・フジャンの話はたまに耳にしますが、具体的な方法は初めて聞きました。彼らのつくり出す晴天がそんな苦行の上に成り立っていたとは。

「いやぁ、でもジャワの黒魔術だって他の地域に負けてないはずだよ。ほら、ディエンには『テントの人』もいるし」

急に出てきた、魔術とはあまり関係のなさそうなテントという単語に私は面食らいました。

「テント?テントがどうしたって?」

私が聞き返すと、スワルトさんが教えてくれました。

「ディエン高原の登り口から少し入ったところに、古びたテントがあるんだよ。中には人がいるんだけど、一切外に出ず、飲まず食わず、排泄もしないで生きてる。何十年も!」

ウィディさんも加勢します。

「僕が小さい頃にはもうそうなってたらしいから、一体何歳なんだろうねぇ」

どうやら仙人のような人間離れした人がいるという話のようです。伝説や小説ではそうした苦行者や仙人が出てきますが、それらから想像されるファンタジックなイメージに対し、テントというアイテムがちぐはぐな現実感を付与しています。

「俺の叔父さんなんかは、あれは植民地時代の魔術師の生き残りだって言ってたよ。『テントの人』はさ、ディエンから歩いては降りてこない、舟で降りるんだって」

また置いてけぼりです。

「ごめん、どういうこと?川下りするの?」

スワルトさんは手を左右にひらひらさせながら答えました。

「違う違う。ディエン高原が一面の海のように水に満たされたとき、彼は舟を使ってディエンから出るんだよ」

冷えた生姜飲料の入ったコップを傾けながら、思わず、水面下に沈んだ山々の間を古びた舟で悠々と渡っていく見知らぬ仙人の姿を想像してしまいました。

(以下に続く)

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