よりどりインドネシア

2022年04月08日号 vol.115

いんどねしあ風土記(35):大衆のソウルフード「インドミー」ラブソディ ~ジャカルタ、西ジャワ州デポック~(横山裕一)

2022年04月08日 21:53 by Matsui-Glocal

多民族国家・インドネシアには各地方に各民族独自の多彩な郷土料理があるが、全国の誰もが好み、国民食ともなっているのがインスタント麺のインドミーだ。2022年で発売50周年を迎えたインドミーは国民の食生活になくてはならない存在になっているだけでなく、世界で最も売れるインスタント麺としてインドネシアを代表する食製品でもある。多くの失業者を出したコロナ禍の近年では、インドミーで起業する若者も増えている。半世紀にわたる様々なインドミー・ラプソディ(狂詩曲)を綴る。

●ブカプアサ(一日の断食明け)の席で

断食月に入った2022年4月初旬の夕方、南ジャカルタのテベットにあるカフェでは、一日の断食明けを待つ客で賑わっていた。午後6時、断食明けを告げ、礼拝を呼びかけるアザーンが近くのモスクから聞こえてくると、すぐに店内のスピーカーからもアザーンが流れる。これを合図に皆、既に注文してあった飲み物に口をつけ、食事を始めた。

一日の断食明けで賑わうジャカルタのカフェ(写真上)。断食明けをインドミーで迎える客(写真下)。

このうち何人かが断食明けとして食べていたのはインドミーだった。このカフェは様々なインドミーメニューを揃えていることでも有名である。会社帰りの同僚だという女性二人組は、卵とじ風スープのインドミーだった。

「普段の断食明けは軽食で済ませますが、たまには好きなインドミーにしようかと思いまして」

カフェの従業員によると、毎年断食月はスナック類や食事など断食明け用の特別メニューも用意するが、約半数の客はインドミー料理を注文するという。ご飯物などもあるなか、何故こうした傾向になるか尋ねると従業員はにっこりとしながらこう答えた。

「インドミーを食べることが皆、習慣になっているからだと思います」

改めて、インドネシア人の食生活にインドミーは深く浸透していることを感じさせる。路上のカキリマ(移動式屋台)をはじめ、食堂など至る所でインドミーはメニューに登場する。これらは需要の裏返しでもある。2020年3月、インドネシアで初の新型コロナウィルス感染者が確認されて、首都ジャカルタでも都市のロックダウン実施が噂されると、各地のスーパーで一斉に生活必需品とともに食品の買い溜めに走る人が増えた。売り場で目を引いたのが、普段は山積みされているインドミーのミーゴレン(焼きそば)の棚が空になっていたことだった。

パンデミック当初の買い溜めで売り切れたミーゴレンの商品棚(2020年3月撮影)

●国民のソウルフードから世界制覇へ ~ インドミー発展史

地元日刊紙『コンパス』によると、英国の調査会社カンタル・ワールドパネルの調べで、2016年、インドミーが世界で最も売れている10大ブランドに名を連ねたことが報じられた。10大ブランドには飲料のコカ・コーラや歯磨きペーストのコルゲート、インスタントコーヒーのネスカフェなどが入っていて、インスタント麺ではインドミーだけがベスト10入りした。つまり、インスタント麺部門ではインドミーが世界で一番売れていることを示している。

今や世界を席巻するインドミー(Indomie)が最初に発売されたのが1972年。開発、発売元は日系資本も入ったサンマル・フード・マニュファクチャリング(PT. Sanmaru Food Manufacturing Co. Ltd)で、インドネシア独自のインスタント麺としてはスープルミー(Supermi)に続いて2番目の登場だった。

当初、インドミーはチキンスープ味(Kuah Rasa Kaldu Ayam)の一種類のみだったが、特筆すべき売上には至らなかったという。かつての日本人と同じく、米を食べないと食事した気にならないインドネシアの人々の食事習慣が影響したためともみられている。しかし、安価(現在の値段で一袋20円余り)で、短時間で簡単に調理できるうえ味が多くの人に支持されたことから、徐々に浸透していったという。

転機が訪れたのが1982年のチキンカレー味(Kuah Rasa Kari Ayam)の発売と、翌年ミーゴレン(焼きそば / Mie Goreng)が発売されてからだった。両新商品は爆発的に売れ、現在に至っても多種類あるインドミーの中で最も人気のある商品だ。インドミー登場から10年。インスタント麺を食べる習慣が定着し、特に学生ら若者を中心にインドミー消費者が広がっていった。また近隣諸国を中心に海外への輸出も始まった。

1983年発売で最も人気のミーゴレン・オリジナル(写真は2022年50周年記念パッケージ)

この消費動向に目をつけ、インドミー製造販売会社の買収を試みたのが、当時スハルト政権下の財閥のひとつ、サリムグループだった。当初、インドミー製造販売会社は買収の提案を拒否した。しかしサリムグループは麺の原料である小麦粉を国内独占取引していたうえ、資金力を駆使して、グループ傘下のインスタント麺商品サリミー(Sarimi)を過剰流通、宣伝することで対抗したという。結局、インドミーを保有するサンマル・フード・マニュファクチャリングは1990年、サリムグループに株式を譲渡し、現在の製造・販売会社であるインドフード・スクセス・マクムル(PT. Indofood Sukses Makmur Tbk.)の前身会社に吸収されることになった。インドフードは否定しているが企業買収をめぐっては当時、株式譲渡を強要したという噂まで出たということで、この背景にはいかにインドミーの商品価値が高く、魅力的だったかを裏付けている。

インドフード・スクセス・マクムル本社のあるインドフードタワー(南ジャカルタ)

インドフード商品となってからもインドミーは売り上げを順調に伸ばしていった。2021年5月、世界即席麺協会(World Instant Noodles Association)は、インドネシアがインスタント麺消費国として世界第2位であることを発表した。2020年のインドネシアでの消費量は126億4000万パッケージ、単純計算で実に一日に3,460万パッケージ余りが消費されている。世界1位は中国で年間389億パッケージと差が開くが、人口差を勘案するとインドネシアのほうが一人当たりの消費割合は大きいことがわかる。これらもインスタント麺業界で圧倒的なシェアを占めるインドミーによる貢献度の高さが表されている。

一方、インドフードは1990年代半ばから海外展開も積極的に行い、現在ナイジェリアやサウジアラビア、セルビア、トルコなど10ヵ国以上に工場を設けている。インドフードの公式サイトによると、インドミーは現在、アジアをはじめアメリカやカナダ、ヨーロッパ、アフリカなど世界100ヵ国以上で販売され、年間190億パッケージが製造されている。こうして、前述のようにインドミーは世界で最も売れているインスタント麺の座を得るに至っている。

とくにアフリカではナイジェリア、ケニア、モロッコ、エジプトと工場が集中しているのを反映してインドミーがかなり普及している。ナイジェリアなどではインドミーが自国の食品だと思い込んでいる人も多いとまでいわれているという。また2021年にはガーナで、インドミーが売春の代金がわりに使用されていた実態も報道された。事件の本質的な問題は別として、インドミーがいかに人々の生活に浸透しているかがわかる。

2000年代以降、インドフードはインドネシア各地の名物スープ味シリーズや、ミーゴレンの激辛版などインドミーのバリエーションを一気に増やした。特にミーゴレンでは青唐辛子味(Rasa Cabe Ijo)やスマトラ島アチェ州名物のカレー風味(Mie Goreng Aceh)がヒットしている。現在、インドミーには20種類以上の味のラインナップがある。

2021年9月には、アメリカのニューヨークマガジンがインスタント麺部門で、世界で最も美味しい商品としてインドミーを選出した。対象はミーゴレン(焼きそば)のオリジナルとバーベキューチキン味(BBQ Chicken)だった。審査員は料理専門家や調理師、レシピ本執筆者らで、サンフランシスコのレストラン評論家はミーゴレンについて「調味料のオニオンオイルなどの味が強く効いている。私も子供の頃から食べ続けている。」と評価している。

インドフードの公式サイトには各国で販売されているインドミーとして、英語やアラビア語、韓国語などで表記されたパッケージが紹介されている。これだけ世界中に普及している一方で、カタカナ表記の日本バージョンがないのは不思議であり、若干寂しくも感じられるほどである。

アラビア文字表記のサウジアラビア用パッケージ。

韓国語の記されたパッケージ。(引用:インドフード公式サイト http://www.indomie.co.id/

(以下に続く)

  • 「下宿生たちのヒーロー」 ~ インドミー普及の背景
  • インドミーでコロナ禍に打ち克つ ~ 起業する若者たち
  • 夜の憩いの友に
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