よりどりインドネシア

2022年01月22日号 vol.110

世界有数の石炭産出国はなぜ石炭不足に陥ったか(松井和久)

2022年01月22日 18:22 by Matsui-Glocal
2022年01月22日 18:22 by Matsui-Glocal

2022年の新しい年が明けてすぐ、インドネシア政府は突如、1月31日まで1ヵ月間の石炭全面輸出禁止を発表しました。すでに中国や日本向けの運搬船に積載された石炭も出帆できない状態となり、インドネシア国内の石炭業者だけでなく、世界中の石炭輸入業者がパニックになりました。

日本にとっても、インドネシアの急な石炭輸出禁止措置は、正月のお屠蘇気分を吹き飛ばすものでした。原発事故後に原発の運転が止まるなか、日本国内での電力供給に大きな役割を果たしてきたのは石炭火力発電所でした。石炭火力発電所の燃料となる石炭の多くは、インドネシアから輸入されているのです。

かつては石油、今は石炭と燃料源は変わり、さらに液化天然ガス(LNG)も含め、日本の電力供給をずっと支えてきたのはインドネシアだった、といっても過言ではないでしょう。インドネシアは、やはり日本にとって重要な国であり続けているのです。

しかし、インドネシア国内の石炭業者がパニックになる前に、実は、国営電力会社PLNやエネルギー鉱産資源省がパニックになっていたのでした。2021年12月30日時点で、PLNは発電用石炭の在庫量が10日分しかないと発表しました。通常ならば、15~20日分を用意しておかなければならないのに、です。このため、PLNが管轄する17基の石炭火力発電所の運転が止まるという状態を予想せざるを得なくなりました。17基のうち、最初にどこをとめるかまで検討しなければなりませんでした。

PLN社長はすぐにエネルギー鉱産資源省に書簡を送り、発電所用の石炭を確保するために輸出を禁止するよう求めました。輸出を禁止しなければ電力供給が止まり、経済に多大な損失を与えることになるからです。PLNのこの「直訴」を受けて、緊急事態と認識した政府は2022年1月1日、1月31日までの石炭の輸出禁止を発表したのでした。

その後、日本、韓国、フィリピンなどから輸出再開、及び石炭積載船の早急な出帆を求める声明が相次ぎ、また、国内での石炭調達に目途がついたとして、1月12日から、政府は段階的に石炭輸出を再開すると発表しました。発電所用燃料をインドネシア産石炭に頼ってきた日本などは、石炭輸出再開に胸をなでおろしたものの、しばらく石炭供給量は大きくは増えないとみています。

それにしても、どうしてこんな事態になってしまったのでしょうか。政府によれば、国内の石炭業者には生産(計画)量の25%を国内での発電所用とする国内供給義務(DMO)が義務付けられているのにそれを守らかったため国内供給が少なくなったと見ており、石炭業者を悪者扱いしています。しかし、石炭業者側にも言い分があり、輸出禁止には反対していました。他方、2020~2021年の国際石炭市況や国内の石炭生産状況を見ながら、石炭の供給不足が起こりうる状態をPLNは事前に予測できたはずです。

世界第7位の石炭埋蔵量(348億トン)を誇る石炭産出国インドネシアがなぜ石炭不足に陥ったのか。以下では、それに迫ってみたいと思います。

石炭採掘の様子(出所)https://money.kompas.com/read/2022/01/10/203000426/larangan-ekspor-batu-bara-wujud-nasionalisme-walau-diprotes-banyak-negara?page=all

●インドネシアが輸出する石炭の種類

一般に、石炭はその炭化の高低によって分類されます。水分が飛んだ高い炭化の石炭から水分を含む低い炭化の石炭の順に、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭、泥炭となります。最も炭化の高い無煙炭は豆炭、練炭、カーバイドなどに、瀝青炭は高炉用コークス製造に使われます。亜瀝青炭、褐炭、泥炭は熱源用として使われますが、発生するカロリー量が異なります。一般に、我々が熱を得るために使う石炭(一般炭)は亜瀝青炭です。

また、石炭を高品位炭と低品位炭に分ける場合があり、前者には無煙炭と瀝青炭が、後者には亜瀝青炭、褐炭、泥炭が含まれます。インドネシアの貿易統計における国際統一商品分類システム(ハーモナイズド・システム)[HS]では、瀝青炭が27011210及び27011290、亜瀝青炭が27011900となっています。以下では、瀝青炭を高品位炭、亜瀝青炭を低品位炭として、話を進めます。

2020年の統計では、インドネシアからの石炭輸出量の8割は低品位炭、すなわち発電所の熱源用の亜瀝青炭でした。興味深いのは、相手国別にみた低品位炭の割合です。中国向けは約7割、インド向けは98.1%であるのに対して、日本向けは27.1%に過ぎません。日本向けも発電所用が多いのですが、石炭輸出量では高品位炭が7割以上を占めています。

インドネシア国内でPLNなどの石炭火力発電所用に調達される石炭は、基本的に低品位炭です。ですから、高品位炭が主の日本向けに輸出される石炭は、インドネシアの国内調達にはほとんど影響しません。これを理由に日本は、今回の石炭輸出全面禁止に対して、日本向け石炭輸出の再開を強く求めたのでした。

言い換えれば、国内調達用と競合する低品位炭の中国やインドなどへの輸出が急増したことで、国内調達用石炭の不足が生じた、ということになります。とくに、2021年は中国への石炭輸出が激増しました。

(以下に続く)

  • 中国への石炭輸出が激増
  • 石炭業者が輸出に励んだ理由
  • PLNの調達計画・手法も問題
  • 結局は石炭業者を利する政策になる

 

 

 

 

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