よりどりインドネシア

2022年01月22日号 vol.110

ロンボクだより(61):渡せなかったお金(岡本みどり)

2022年01月22日 18:22 by Matsui-Glocal
2022年01月22日 18:22 by Matsui-Glocal

みなさん、こんにちは。今回のエッセイは2021年10月頃に起こった出来事についてです。あまり明るい題材ではないので、書こうかどうか、ずっと迷っていましたが、読者のみなさんと一緒に考えてみたいので、私の経験を分かち合うことにします。

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その日はよく晴れていました。「行くなら今だな。」

私は、お金をおろしに最寄りのATMへ向かいました。警備する方がいるとはいえ、銀行支店内ではないATMでお金を引き出すのは無防備な気がして、私は暑くて人通りの少ない昼間を狙って外出しました。

そこには、大通り沿いに並んだ4つの銀行のATMのほか、数台の車とバイクを停めるスペースがあり、そのスペースを警備する方が一人います。

銀行のATMがある通り

この日も、駐車スペースにいつものように警備員がいて、その警備員と40代くらいの女性が話しているのが見えるばかりでした。女性の身なりはまぁ、この村での平均的な服装といいましょうか、ヒジャブをかぶり、長袖のTシャツにゆったりしたサイズのパンツ姿です。警備員と話しているなら安全だと判断して、私はATMのある個室ブースに入りました。

と、そのときです。警備員と話していた女性が、ササッと寄ってきて私と一緒にブースに入ってきました。私が驚きのあまり声も出せずに固まっていたら、その女性が私に「あのぅ・・・」と声をかけてきました。そして、「このカード・・・」とおずおずと一枚のカードを差し出したのです。

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「お金が引き出せないんです・・・手伝ってください」と、私より小柄な彼女は恥ずかしそうに肩をすくめました。あ、悪い人ではないんだ。私は安心しました。きっと警備員とも「お金が引き出せない」と相談していたのでしょう。

「お金を引き出したいんですね?」

私は彼女に確認をして、カードを見せていただきました。ATMカードと同じ大きさですが、赤と白のカードで、私の利用している銀行のカードではありません。このカードで引き出すのかと問うと、彼女は、いつもこれで引き出していると答えました。

「試してみてもいいですか?」

私は彼女からカードを受け取り、彼女に暗証番号を押してもらってからお金を引き出す画面にたどり着きました。どこの銀行のどんなカードかわからなかったけれど、ちゃんとお金が引き出せるようです。

「いくら引き出すんですか?」

「2ジュタ・・・」(=200万ルピア、約1.6万円)

村の大半の人々の月収より多い金額なので、けっこうな金額をおろすのだなぁと思いました。それは口には出さず、彼女の希望どおり200万ルピアを引き出し額に指定すると、残高が足りないと表示されました。彼女は「そうですか・・・」と小さな声でうつむいていました。

その様子をみて、私は、彼女には200万ルピアが口座にある「当て」があったのだなと感じ、彼女にいくつか質問しました。

(⇒ 彼女いわく、彼女は政府から生活保護(?)を受け取っていて、)

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