よりどりインドネシア

2022年01月22日号 vol.110

ラサ・サヤン(27):~マスック・アンギンの治療法~(石川礼子)

2022年01月22日 18:23 by Matsui-Glocal

一般的に、インドネシアは5~10月が乾季、11~4月は雨季となっています。この乾季と雨季が異常気象により、毎年ずれてきています。雨季の始まりが少しずつ遅くなっており、乾季でも雨季並みの大雨が続くこともしばしばあります。

2021年12月中旬、フィリピン中部を直撃した台風22号は死者100人を超える被害に拡がっており、マレーシアでは過去数十年間で最悪規模の洪水が発生しています。インドネシアは赤道より南に位置していることから台風は発生しませんが、ジャカルタ首都特別州では、少し前までは5年に1度、甚大な洪水被害が発生するというジンクスが存在しました。

直近では、2019年12月31日午後から2020年1月1日未明にかけて降り続いた大雨の影響で、ジャカルタ、ブカシ、タンゲラン等で大洪水が発生、ジャカルタ首都特別州だけで1万9,079人が避難、16歳の少年を含む計9人が亡くなりました。

ホテル・インドネシア前のロータリーまで冠水する事態に。

ゴムボートで避難する人たち。

●マスック・アンギン

こんな雨季には特に、「マスック・アンギン」(masuk angin)が流行します。

「マスック・アンギン」とは、その名の通り「身体に風(angin)が入った(masuk)」状態のことを言います。「風」(angin)とは何でしょうか。私は「悪い『気(目に見えないエネルギー)』」ではないかと思っています。その「悪い『気』」が入ることによって体調を崩してしまう。悪寒がする、身体の節々が痛む、お腹が張る、咳が出る、鼻水が出る、頭痛がする、微熱が出るなど、風邪の初期症状のような状態になります。

日本語では「風邪」と書きますが、この言葉は古典中国語に由来するものです。中国医学では、空気が動くことによって、身体に様々な影響を与え、あらゆる病気の原因になると考えられています。その原因となるのが、六淫(りくいん)と呼ばれる「邪気(じゃき)」とされています。

この六淫とは、風(ふう)、寒(かん)、暑(しょ)、湿(しつ)、燥(そう)、火(か)の6種類があり、それぞれ風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪と呼ばれました。自然現象のなかでの風や、湿気、乾燥、寒さ、暑さなどの温度変化が人の呼吸や体の皮膚などに、外から引き入れられて、病気の原因になるという考え方です。まさに「悪い気=邪気」ですよね。

したがい、「マスック・アンギン」は身体に「邪気」が入って体調を崩した状態のことをいうのだと思います。

「マスック・アンギン」は、インドネシアで最もポピュラーな病気だと言っても過言ではありません。体調が優れないと、周りから“Masuk Angin ya? ”(マスック・アンギンですか?)と聞かれたり、雨に濡れたり、食欲が無い時には、“Hati-hati, jangan sampai Masuk Angin”(マスック・アンギンにならないように気を付けてね)などと良く言われます。

勿論、「マスック・アンギン」は医療用語には存在しない病名で、インドネシアでしか使われていないようです。その症状は、前述の通り、風邪の症状のようですが、風邪はインドネシア語で“Flu”(インフルエンザの略語)と言いますので、「マスック・アンギン」は風邪がひどくなる前段階で、処置に依っては風邪に至らずに治ってしまうこともあります。

●マスック・アンギン治療法

ですから、インドネシアにはこの「マスック・アンギン=風邪のひき始め」の段階で何とか治してしまおうという治療法が少なからずあります。そのなかのいくつかをご紹介したいと思います。

 (1) クロカン(Kerokan)

クロカンとは、決して「クロスカントリー」の略語ではありません(笑)

クロカンとは、ジャワ語で「擦る(こする)」という意味の“Kerok”から来ています。これが民間療法では、昔から一番ポピュラーなのではないかと思います。

背中にオイル(ユーカリの仲間のカユプティから採ったMinyak Kayu Puihが定番)を塗って、硬貨を使って背中を擦ります。それにより、血の巡りを良くして体から「邪気」を排出させるという論理です。聞いただけで痛そうに思いますが、本当に「痛い」です!!

硬貨の端で背中を平行に擦り、皮膚の表面を刺激することで、血行が良くなって、邪気(毒素)を含んだ血液が肌の表面に出て赤い痣が現れます。この赤い痣は、体調が悪い人ほど濃く出ます。

私も過去に1~2回、クロカンを試したことがありますが、痛過ぎるのと、痣があまりにも痛々しく目立ち過ぎるので(ショートヘアだと、首の後ろから見えてしまう)、途中でやめてもらいました。何度かやると痛みを感じなくなり、むしろ気持ち良く感じると言いますが、私には荒療法に思えてしかたありません。マッサージ店でも、クロカンを頻繁に勧められますが、医学的にはその効果は全く認められていないようです。

そもそもクロカンの起源は、中国伝統療法の「カッサ」(刮痧)だと言われています。「カッサ」(刮痧)は、ヒスイや水晶などの天然石や牛角、陶磁器などでリンパをマッサージして体内の毒素を肌表面に押し出す療法です。この「カッサ」(刮痧)は、今や『神秘的な東洋の美容法』として人気があり、ショート動画共有アプリの“TikTok”では、カッサの中国語発音“guasha”というハッシュタグが付いた話題のクリック回数が3億6000万回に達しているそうです。

インドネシアのクロカンも負けておらず、最近では硬貨以外にもオシャレな道具や電動式のものが通販で各種売られています。硬貨を使うのなら、千ルピア硬貨がベストらしいのですが、なかには海外の硬貨の感触がより良いと言う人も居て、好みがそれぞれあるようです。海外旅行で余った硬貨はクロカン好きへの良い土産になるかもしれません。

皆さんも一度、クロカンをお試しあれ!

千ルピア硬貨を使って擦るクロカン。

赤痣は2~4日で消えると言われています。

話題のカッサを使った美容法。

 (以下に続く)

  • (2) マッサージ
  • (3) ジャムウ
  • 雨季の過ごし方
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