よりどりインドネシア

2021年12月08日号 vol.107

ラサ・サヤン(24)~奴隷からジャワ島一の金持ちに~(石川礼子)

2021年12月08日 19:56 by Matsui-Glocal
2021年12月08日 19:56 by Matsui-Glocal

私が住んでいるジャカルタはその昔、「バタビア」と呼ばれていました。歴史的には、1619年にオランダ東インド会社、東インド総督のヤン・ピーテルスゾーン・クーンがバンテン王国(16~19世紀にかけてバンテン地区に栄えた港市国家)から土地を租借し、要塞バタヴィア城を築いてオランダ東インド会社のアジアにおける本拠地としたのがバタビアの始まりのようです。

その際に、インドやビルマ、スラウェシ島やバリ島、アンボン島、中部ジャワや西ジャワなど、様々な地域から労働力として集められた人々の末裔が「ブタウィ(Betawi)族」と呼ばれる先住民で、その後もオランダ、アラブ、中国、ポルトガルなどとの混血が進みました。「ブタウィ族」は現在、主にジャカルタおよび近郊のJabodetabek(ジャカルタ、ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシの総称)地域に住んでいます。

●ブタウィ文化

「ブタウィ族」は、都市化の波により、全国各地から人々が流入してくると、徐々に土地利権も失い、現在の人口は700万人を割り込んでいます。それでも、ブタウィ文化は根強く残っており、そのなかの一つが以前の記事で紹介した魔除けの意味を持つ『オンデル・オンデル』という人形です。

ブタウィ文化は、マレー文化と中国文化の影響を強く受けており、伝統、建築、料理、衣服、音楽などに反映されています。それ以外にも、アラビア、ポルトガル、オランダなど西洋の影響も受けているものが見られます。

皆さん、ブタウィ文化と表題がどういう関係にあるのか疑問に思っていらっしゃるかも知れません。今回は、ある家族のシンデレラ・ストーリーがブタウィ文化に与えた影響について書いてみたいと思います。表題にあるように、奴隷という身分からジャワ島一の金持ちになった家族の話です。

それは一人の男の物語から始まります。

●マルディジュケル人

その男は、Titus van Benggalaという、1600年代にベンガル地方(今のバングラデシュ)から奴隷としてバタビアに連れて来られた労働者です。Titus van Benggalaは、後に「マルディジュケル人」のコミュニティを作り、その長となります。

オランダ人画家が描いた要塞バタヴィア城

マルディジュケル人の家族

「マルディジュケル人」という言葉を初めて聞く方が多いと思いますが、「マルディジュケル人」とは、オランダ領東インド(独立前のインドネシア共和国)で、解放された奴隷たちの子孫たちが作った民族集団のことです。16世紀~17世紀にインド、アフリカ、マレー半島にいたポルトガル人の奴隷たちがオランダ東インド会社(VOC)によってインドネシアに連れて来られました。

とくに、オランダがマラッカを征服した1641年以降は、そこにいたポルトガル人が捕虜になり、一部はフィリピンのモロ族に捕らえられ、バタビアの奴隷市場で売られたそうです。彼らは、インドネシア語に影響を与えたポルトガル派生のパトワ語を話しました。

マルディジュケルという言葉は、「豊かで繁栄し、力強い」という意味のサンスクリット語のマハルディカに由来するマレー語の“Merdeka”から派生しており、解放された奴隷の意味であり、現在では「ムルデカ=独立」を意味します。

マルディジュケル人はカトリック信仰に固執し、バタビアのポルトガル教会に通い続けましたが、多くは最終的にオランダ改革派教会(プロテスタント)によって洗礼を受けます。またオランダ東インド会社は、彼らをネイティブのジャワ人とは別の民族グループとして、法的に認めていました。しかし、時間の経過とともに、マルディジュケル人はユーラシアのインド系ユーラシアンに完全に同化し、独立した民族グループとしての登録はされなくなりました。

(以下に続く)

  • ツバメの巣事業でジャワ島一の金持ちに
  • 鄭和とツバメの巣
  • タンジドール音楽とチトラップ・カントリーハウス
  • TVドラマに出てくるタンジドール
  • マディジュケル人が残したもの
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