よりどりインドネシア

2021年12月08日号 vol.107

ジャカルタ寸景(6):いとしのミー・アヤム(横山裕一)

2021年12月08日 19:56 by Matsui-Glocal
2021年12月08日 19:56 by Matsui-Glocal

●アパートの脇道で

初めてこのミー・アヤム(鶏肉ラーメン)の店に行ったのは、2013年5月の雨の夜だった。ジャカルタ南郊外の首都圏の街、西ジャワ州デポック。当時、自宅だったアパート横の脇道にあり、存在に気づくまでまさに灯台下暗しだった。

乾季に入り晴天が続いた分、溜まったものを一気に吐き出すかのように土砂降りが続いた夜。店の入り口から中を見ると、4メートル四方くらいの小さな店内。入口に客のサンダルが並んでいる。雨にもかかわらず、床のタイルはきれいに掃除されていた。すると外国人だからと気を遣ってくれたのか、中から店のおばちゃんの声が届く。

「大丈夫、靴のままあがっていいよ」

初めて訪れた時のミー・アヤム店舗内の様子(ジャワ州デポック、2013年撮影)

床を泥で汚したくなかったので靴を脱いで店内へ。壁にあるメニューを見るとバソ(魚肉などの肉団子)とミー・アヤム、バソ入りミー・アヤムの3種類といたってシンプル。注文するとポーチを襷懸けしたおばちゃんが調理に入る。調理台がおばちゃんにはちょっと高いのか、小さな木箱の上に載って、青菜を刻んだり、麺をゆがいたりしている。屋根を打ちつける雨音とともに、店内ではラジカセからジャワ語の歌がゆったりと流れる。

できたてのバソ入りミー・アヤム(ミー・アヤム・バソ)が来る。透明なスープ、麺の上にはしっかりと味がついていそうな鶏肉と青菜。それにピンポン球ほどの大きめの肉団子・バソが丼の端で存在感を示す。

まずはスープを一口。一人頷いて、ちょっとサンバル(唐辛子ソース)を加えて麺ごと混ぜる。辛みを含めたいい香りが広がる。シコシコの麺をすする。大きい魚肉のバソをスプーンで3分の1ほどに割ると、嬉しいことに、中には鶏のひき肉も入っていた。こうなるともう箸が止まらなかった・・・

ミー・アヤム・バソ(Mie Ayam Bakso)

中ジャワ州ソロ出身のおばちゃん曰く、旦那さんが長年デポックでミー・アヤムのカキリマ(移動式屋台)をやっていて、3年前にこの店舗を開いたという。牛骨を煮込んだスープ、おばちゃんお手製のバソ、麺は独自レシピで製麺業者に発注。まさに夫婦で積み上げた味だ。店名「ダヤット兄さん」(PA’DE DAYAT)は息子の名前から付けたという。

「おばちゃん、美味しいよ」と言うと、客の青年が笑いながら「旨いだろう?僕もよく来るよ」。それを見守るかのように調理台にもたれながら、静かに微笑んでいるおばちゃん。ふと入口を見ると、雨に濡れないよう、いつの間にか靴をわざわざ店の中に入れてくれていた。

味はもちろんのこと、おばちゃんの心遣いに感激し、それから1週間で6日も食べに行ってしまった。実は残る一日も行ったのだが、品切れで食べそびれただけのことだった。その後、スープをより楽しみたいと思い、麺を食べた後に頼んだライスをスープに入れるまでにもなる。

●下町の懐かしさ

混んでいない時は、食後もアイスティーでひと息いれる憩いの場にもなっていた。店の窓の外は、住宅が細い通りから若干奥まって建っているため、狭い広場のようになっている。そこにはよく、商品をカキリマやバイクに鈴なりにぶら下げての日用雑貨売りが来る。すると、それを合図にしたかのように、大勢の主婦らが集まってくる。なかには小さな子どもに皿に盛ったご飯を食べさせながら来るお母さんまでいた。

商品を手に取ったりはしているが、目的は井戸端会議であるかのごとく賑やかに会話が始まる。気がつくとおばちゃんも店から出て会議に参加し、楽しそうに笑っていた。そこには日本人には懐かしい下町の光景があった。

ミー・アヤム店の窓からの井戸端会議の光景

その後、同じアパートに住む日本人の友人にも教えると、皆同じように気に入ってくれたのだろう、ある日曜日の夕方店に行くと、一人二人と友人が来店し、結局偶然にも、教えた3人全員が集合してしまったこともある。

(下町のミー・アヤム店は・・・)

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