ジョコ・ウィドド(通称・ジョコウィ)大統領は、10月30~31日にローマで開催されるG20首脳会合への出発を前に、11月中に退役する現在のハディ・チャハヤント(Hadi Tjahyanto)国軍司令官に替わる司令官候補として、アンディカ・プルカサ(Andika Perkasa)陸軍参謀長を推薦する、との文書を国会に提出しました。そして11月6日、国会国防委員会はアンディカ陸軍参謀長に対するフィット&プロパーテストを行い、国軍司令官として適格であると承認しました。正式就任は11月後半の予定です。
10月半ばまで、国軍司令官候補として有力だったのはユド海軍参謀長でした。それが、ジョコウィ大統領がローマへ出発する前のわずか2週間の間に、アンディカ陸軍参謀長へ変わったのでした。
この候補推薦は異例のものでした。第1に、インドネシアの国軍司令官人事は陸・海・空軍からの輪番制を原則としています。現在のハディ国軍司令官は前空軍参謀長で、その前任が陸軍参謀長だったことから、順番通りならば、ユド・マルゴノ(Yudo Margono)海軍参謀長が国軍司令官となる番でした。今回の候補推薦はこの慣例を破るものでした。
本来なら順番のはずの海軍内部は、水面下でこの決定にかなり不満だったようです。それを見越してか、大統領府はユド海軍参謀長に国軍副司令官ポストを打診したようです。
第2に、退役までの期間の問題です。順当に行けば国軍司令官になるはずのユド海軍参謀長は2023年に退役しますが、ジョコウィ大統領が推薦したアンディカ陸軍参謀長は2022年に退役となり、国軍司令官になっても13ヵ月で退役になってしまいます。もちろん、大統領権限で退役時期を延長することは可能です。ジョコウィ大統領は2024年大統領選挙・総選挙の日程を気にしていて、選挙期間中の2023年に退役するユド海軍参謀長を外したということです。
ジョコウィ大統領は、どうしてアンディカ陸軍参謀長を次期国軍司令官に推薦したのでしょうか。アンディカ陸軍参謀長がジョコウィ大統領と極めて近い関係にある、というのも一つの重要な理由です。さらには、アンディカ陸軍参謀長が軍人として卓抜したキャリアを経ていて、それ自体では文句がつけようのないように見える、ということも理由として考えられます。
しかし、理由はそれだけでしょうか。裏側には、2024年大統領選挙。総選挙をにらんだ、なにか政治的な思惑が隠されているのではないでしょうか。
本稿では、まず、アンディカ陸軍参謀長とはどのような人物かを検討することから始めてみます。
2018年11月に陸軍参謀長に任命された際のアンディカ・プルカサ氏(出所)https://www.cnbcindonesia.com/news/20211106172722-4-289541/bakal-jadi-panglima-tni-ini-jejak-jenderal-andika-perkasa
(以下に続く)
- アンディカ陸軍参謀長のプロフィール
- アンディカ氏への批判はなぜ出るのか
- 国軍司令官人事の裏にある政治シナリオ
- 次期指導者は政府批判ににらみを利かせる強い人物か
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