“GoTo”と聞いたら、昨年中断した、日本政府の推進した「Go Toキャンペーン」と思った方もいらっしゃるかもしれません。でも、インドネシアの“GoTo”というのは、 “Gojek”(以下、ゴジェック)と“Tokopedia”(以下、トコペディア)の合併、のことです。
2021年5月21日の報道によると、「インドネシアの配車サービス会社ゴジェックは、ソフトバンク・グループが出資するネット通販会社トコペディアと合併することで合意した。インドネシア最大のインターネット企業が誕生する」とあります。
統合後の新会社(持株会社)は“GoTo Group”となり、カーシェアリングやフィンテック、オンライン・ショッピング、配送など、多岐にわたる事業を手掛けることになります。
現在、合併はすでに完了しているのですが、この合併がどのような意味を持つのか、調べてみました。
その前に、ゴジェックとトコペディアの紹介をしておきます。
●ゴジェックとは
ゴジェックは、現教育文化大臣であるナディム・マカリム氏によって設立されたベンチャー企業です。ナディム・マカリム氏は、インドネシア史上、最年少の大臣(就任当時35歳)となりました。米ハーバード大経営大学院を修了、ジャカルタのマッキンゼー&カンパニーに約3年勤め、二社のeコマース企業を経て、2010年にゴジェックを起業します。
2015年1月にアンドロイドおよびiOS向けのアプリケーションを公開し、配車サービス(GoCar)、ライドシェア(相乗り)サービス(GoRide)、料理の出前サービス(GoFood)、買い物の代行サービス(GoShop)など、20種類以上のサービスを提供、そして、それら全てのサービスの支払いが行える“GoPay”という決済サービスを提供し、“GoPay”でレストランやスーパーマーケット、オンライン・ショッピング、公共料金の支払いを可能にしました。今では、いずれもインドネシアの(とくに主要都市に住む)庶民の生活に不可欠なサービスとなっています。2018年には、ベトナムでサービスを開始し、2019年1月にはシンガポールでもサービスを開始しました。ゴジェックは、世界に29社しかない巨大未上場企業「デカコーン」となっています。前述のナディム教育文化大臣は、2019年10月に入閣要請を受諾し、ゴジェックの最高経営責任者(CEO)を退任しています。
ゴジェックは、Astra International(インドネシア有数の複合企業)、blibli.com(eコマース、大手たばこメーカーDjarumグループの子会社)、Google(グーグル)、Facebook(フェイスブック)、PayPal(オンライン決済サービス)、三菱自動車工業株式会社、Sequoia(米ベンチャーキャピタル)、Northstar Group(シンガポールのプライベート・エクイティ・ファンド・マネジメント会社)、Temasek Holdings(シンガポール政府が所有する投資会社)のほか、数々の企業から投資を受けています。GoTo合併前の今年5月には、Telkomselがゴジェックに3億ドルを投資したニュースが流れました。Telkomselは、インドネシア国内に1億7,000万人以上の携帯契約者を擁するインドネシア最大の国営通信事業者です。このTelkomselの投資は、GoTo合併により、インドネシアにおける包括的で持続可能なデジタル・エコシステムの発展を強化するためのものとされています。
ゴジェックのドライバーたち
GoFoodは料理の出前サービス
●トコペディアとは
トコペディアのサクセスストーリーについて、以前、少し書いたことがありますが、二名のインドネシア人青年起業家によって設立された大手オンライン・マーケット・プレイス(eコマース)です。インドネシア内外のベンチャーキャピタルから資金を調達、2017年にはアリババ・グループ(世界最大のB2Bトレーディング・プラットフォーム)、ソフトバンク・グループ株式会社(携帯電話等の電気通信事業者やインターネット関連会社等を傘下に置く日本の持株会社)、Temasek Holdingsなどから11億ドル(約1,240億円)の出資を受け、インドネシアの「ユニコーン」企業となりました。2020年8月時点での企業価値は80億ドルに到達しています。
トコペディアはマーケットプレイス型のeコマースで、自社で在庫も持ちながら、卸売業者から個人商店、さらには個人出品者にプラットフォームを提供して、それぞれの販売店/出品者が消費者に直接販売する形式を取っています。プラットフォーム上の販売店舗数は1,100万店あり、競合他社のShopee(販売店舗数370万店)を遥かに上回っています。取扱商品数は3億5,000万点、デイリーアクティブユーザー数(DAU)は1億3,500万人に達しており、インドネシア全人口の半分が利用しているといっても過言ではないでしょう。それらのサービスをインドネシア全土の98%の地域に提供しています。今や名実ともにインドネシア最大のeコマースに成長しています。
取扱商品数からお分かりのように、ありとあらゆるものが販売されており、それこそ、釘一本から二輪車、生活用品から書籍、インドネシア各地の工芸品、小さな家具から大きな家具、そして、イスラム教の犠牲祭(イドゥル・アドハ)の前には生贄となる生きた牛やヤギまで売られます。詳しくは『よりどりインドネシア』第81号(2020年11月7日発行)の拙稿「ラサ・サヤン(11):インドネシアのネットショッピング事情」をご覧ください。
トコペディアの通販サイト
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以上が、ゴジェックとトコペディアの紹介です。
(以下に続く)
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