よりどりインドネシア

2021年08月08日号 vol.99

コモド国立公園の観光開発をめぐる懸念(松井和久)

2021年08月08日 19:23 by Matsui-Glocal

経済開発か環境保護か。この古典的な問題は、昔も今も、豊かになっていく国々にとって避けて通れないものです。もちろん、インドネシアもその例外ではありません。しかも、豊かな資源に恵まれ、赤道が世界で最も長く含まれるインドネシアの環境問題は、地球温暖化や気候変動といったグローバルな地球環境問題と直結します。そのホット・イッシュー度は高まっていると言えます。

ここ数日、インドネシアの日刊紙『コラン・テンポ』が、国内にある世界遺産の現状への国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の厳しい姿勢を連続して取り上げています。今回は、その記事のなかのコモド国立公園を取り上げます。

コモド国立公園は小スンダ列島に位置し、コモド(Komodo)島、パダール(Padar)島、リンチャ(Rinca)島を含む173.5平方キロメートルの面積があり、行政上は、東ヌサトゥンガラ州の最も西、西ヌサトゥンガラ州との州境に近い位置にあります。コモド国立公園へのアクセスは、フローレス島西端の港町ラブアンバジョ(Labuan Bajo)が基点となります。かつて、ラブアンバジョにたどり着くには、バリ島から陸路でバスとフェリーを乗り継ぐしかありませんでしたが、今や、ジャカルタなどから航空便で到着できるようになりました。

コモド国立公園(コモド島、パダール島、リンチャ島)とラブアンバジョの位置。(出所)https://www.paketwisatakomodo.com/komodo-di-pulau-rinca/

コモド国立公園といえば、最大全長3メートル以上、世界最大のトカゲであるコモドオオトカゲの生息地として有名です。コモドオオトカゲは何万年も前から生き残ってきた「生きた化石」ともいうべき、過去の恐竜時代を彷彿とさせる存在です。もちろん、コモド国立公園以外では見られない固有種です。1911年に西洋人によって「発見」されました。

1991年、UNESCOはこのコモド国立公園を世界遺産(自然遺産)として登録しました。登録の際に満たされた条件は、「ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの」(条件7)、及び「生物多様性の本来的保全にとって、最も重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる」(条件10)の2つでした。明らかに、コモドオオトカゲの保全が最も重視されています。

UNESCOは毎年開かれる世界遺産委員会拡大会合の場で、新たな世界遺産登録を決定するほか、登録済世界遺産の現況モニタリング結果の報告を行います。

2021年は7月16~31日にオンラインで第44回会合が開かれ、日本が申請していた「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(自然遺産)と「北海道、北東北の縄文遺跡群」(文化遺産)の2件が世界遺産に登録されました。現時点で登録済世界遺産は1,154件(文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件)となっています。また、武力紛争、自然災害、都市開発、観光開発などで世界遺産としての意義を揺るがす危機に直面する危機遺産は52件あります。

この第44回世界遺産委員会拡大会合の席上、インドネシアにある世界遺産についてのモニタリング結果がUNESCOから発表され、東ヌサトゥンガラ州のコモド国立公園、パプア州のロレンツ国立公園、バリ島のスバック(伝統的な水利組合システム)などについて、現況に対する危機感が表明されました。とくに、コモド国立公園については、観光インフラ建設の中止を含む、相当に厳しい勧告がインドネシア政府に対して出されました。

他方、インドネシア政府は、外貨獲得を目的に、観光開発を重視しており、とくに、外国観光客の獲得へ向けた世界標準の観光地づくりを進めることを開発政策の重点の一つに位置づけています。ホテル・宿泊施設、娯楽施設、その他道路や交通手段などのインフラ整備が重視されます。地域格差是正の意味も込めて、ジャワ島外の有望観光地開発にはとくに力を入れています。

コモド国立公園も有望地として観光開発の高い優先度が付けられており、フローレス島最西端の港町・ラブアンバジョを拠点として、コモド国立公園を世界的なエコツーリズム観光地とするための「ラブアンバジョ統合観光基本計画」が策定されています。

なお、インドネシア政府は、2023年のG-20サミットをラブアンバジョで開催する計画で、それも含めたインフラ開発が行われています。

ところで、昨年、一枚の写真(下)がSNS上で公開・拡散され、大きな反響を呼びました。コモド国立公園のなかのリンチャ島での写真なのですが、コモドオオトカゲの生息域のすぐそばまで観光開発が入り込んできたことが象徴されたためです。あるいは、生息域が狭められたコモドオオトカゲが観光開発区域に入り込んできたのかもしれません。

リンチャ島で観光インフラ建設に関わるトラックと対峙するコモドオオトカゲ。(出所)https://www.bbc.com/japanese/54705138

英字紙『ジャカルタポスト』はこの光景を、北京の天安門事件で戦車に立ち向かう青年の姿、に見立てました。まさに、環境と開発の狭間を痛感させる一枚と言えます。

今回は、コモド国立公園に関するUNESCOの懸念の内容、それに対するインドネシア政府の反応、コモド国立公園における観光開発構想の内容とその裏側について、触れていきたいと思います。

(以下に続く)

  • コモド国立公園は世界遺産登録当初から危機遺産
  • 環境影響評価の改訂版はUNESCOへ提出されないまま
  • UNESCOの要求に対するインドネシア側の反応
  • 観光開発許可を受けた民間企業
  • コモド国立公園とエコツーリズムの今後

 

 

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