よりどりインドネシア

2021年07月22日号 vol.98

パプア特別自治法改正をめぐって ~モラルハザードの継続と分断の深化~(松井和久)

2021年07月27日 20:08 by Matsui-Glocal

インドネシアの最東部、ニューギニア島の西半分に位置するパプア州および西パプア州をまとめて、私たちは一般に「パプア」と呼んでいます。メディア報道などでご承知の通り、インドネシアからの分離独立運動が続いていることでも知られます。今でも、パプアでのメディアの活動は厳しく制限されており、分離独立運動の支持者はインドネシア政府から敵視され、マークされています。

新年を祝うため、西パプア州のラジャアンパット諸島を訪れたジョコ・ウィドド大統領。(出所)https://en.tempo.co/read/731775/jokowi-to-celebrate-new-year-in-raja-ampat-papua

パプア問題はある意味、インドネシアという国家にとって極めてセンシティブな問題です。インドネシアが旧宗主国オランダから独立を果たした後も、パプアはオランダ領であり続けました。1961年にオランダがパプアでの植民地統治を終えると、インドネシア国軍はパプアへ武力介入し、国連の仲介のなか、1963年にインドネシアによる統治が認められ、1969年に帰属確定のための住民投票が実施されました。インドネシア政府は帰属確定という結果が出されたとしてインドネシア領としての統治を現在まで続けていますが、その投票自体がインドネシア国軍によって操作された疑いがあると主張する勢力は、投票のやり直しとインドネシアからの分離独立を主張してきました。

インドネシア政府によれば、現時点でパプアの分離独立を支持する国々はバヌアツなどごく少数に過ぎず、ほとんどの国々がパプアのインドネシアへの帰属を認めているとしています。国際的には、パプアはインドネシアの一部として認識されていることはたしかです。

操作された疑いもある帰属確定のための住民投票から半世紀以上が経過した今、パプア問題の中心は、もはや国軍による住民投票の不正摘発ではなくなっています。むしろ、他の国内地域に比べて開発が大きく遅れたという不公平感や格差、パプアの豊かな資源開発・管理にパプアの人々が関われない現実、そしてパプアの人々に対する様々な差別・蔑視、こうしたものに対する不満の蓄積が根底にあります。これらの不満が時としてインドネシアからの分離独立への心情的な期待につながってしまう面があります。時には、政府機関内部で人事昇進が認められなかった者が、その当てつけとして差別反対、分離独立を叫ぶようなケースすらありました。

差別される側がその「差別」を逆手に、特別な配慮や待遇を相手に求めることは決して珍しいことではありません。たとえ、本当に正当な結果として人事昇進できなかったのだとしても、「それは差別だ」と主張し圧力をかけて結果を覆すことは、日本でもどこでもよく見られるものです。本当に正当な結果なのかどうか、差別ではないかを客観的に判断しなければなりませんが、こうした一種の「逆差別」による理不尽な行動が成立するためには、差別(意識)があるという状況が続くことが必要になってきます。そして、そのままでは、本当の意味での差別解消への道は険しいといわざるを得ません。

パプア問題を見ていくには、格差・差別への批判だけでなく、こうした「差別」による恩恵という面も考慮する必要があると考えます。それは、中央政府とパプアとの関係が、単なる中央政府によるパプア支配という観点だけでなく、パプア側がこうした状況を利用して中央政府へ圧力をかけている面があるからです。端的に言えば、「パプアが分離独立するかもしれない」という世論を形成し続けたほうが、パプアの要求を中央政府に飲ませやすいからです。

●パプア特別自治法とパプア原住民

パプアには2001年から、他州よりも大きな権限を認められた特別自治が適用されています。スハルト政権が1998年5月に崩壊し、後継のハビビ政権が中央集権から地方分権化へ舵を切り、その流れで、当時、インドネシアからの分離独立の動きのあったアチェとパプアには各々特別自治法が適用されました。

パプア特別自治法(法律2001年第21号)では、地方政党の設立や民族旗・民族歌の使用が認められたほか、施行から20年間、天然資源からの歳入分与では原油・ガス収入の70%をパプアへ配分(他州は5~6%)するなど大きく優遇されました。また、地方政府や地方議会とは別に、慣習法組織代表などパプア原住民(Orang Asli Papua)の文化的代表で構成されるパプア人民協議会(Majelis Rakyat Papua: MRP)が設立され、正副州知事候補や地方政令に関するチェック機能を通じて、パプア原住民の権利保護を進める機能を果たしてきました。

パプア特別自治でとくに強調されたのが、パプア原住民(Orang Asli Papua)の優遇です。パプア特別自治法によると、パプア原住民とは「パプア州・西パプア州の土着種族(メラネシア系)出身の者、パプアの慣習法社会からパプア原住民として認められ受け入れられている者」と定義されています。

パプアで土着種族とされているのは255種族(さらに細かい種族を含めると1068種族)あり、その出身者はパプア原住民と見なされます。他方、片親がパプア原住民でない場合の子どもはどうなのか、土着種族出身でも長年パプアを離れていた者はどうなのかなど、実はパプア原住民の定義はあいまいで、恣意的に運用できる余地を残しています。

とくに、地方首長選挙の立候補者資格には「パプア原住民であること」という規定があり、パプア人民協議会や選挙委員会の判断一つで認定結果が如何様にもなり得る恐れがあります。この「パプア原住民」というカテゴリーは、あいまいな定義ではありますが、以下で説明するパプア特別自治法改正においても、とても重要なものとなってきます。

(次に続く)

  • パプア特別自治法改正と主なポイント
  • 特別自治資金と優遇措置の延長
  • パプア特別自治法改正への反発
  • 中央政府によるアメとムチ及び分割統治
  • 水平的分断と垂直的分断への深化
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