前回の『よりどりインドネシア』第92号に続き、今回は、ウォノソボの観光全体に焦点を当てていきたいと思います。
コロナ禍で世界中のあらゆる産業が経済的打撃を被っているなか、とくに強い影響を受けているものの一つが観光業ではないでしょうか。人の移動や集合に制限をかけなければいけない現状は、観光業の根幹を揺るがすものです。
ウォノソボは農業による収益が大半を占めていますが、一方で、ディエン高原という観光地をかかえてもいます。さらに、ディエン高原だけではない、地域の特色を観光につなげようという動きも近年盛んになってきています。
パンデミックにより観光のあり方が変わっていくなか、一地方都市であるウォノソボの向かう先とは?そこに浮き彫りになる問題とどう向き合っていくべきでしょうか?
●自然、人工、文化
ディエン高原は、ヒンドゥー・仏教時代には山岳信仰と相俟って神聖な山、神々が宿る場所と考えられてきました。そのため、多くの寺院が建設されたり、瞑想の場所とされたりし、そうしたものを目的とした人々が訪れる場所であったようです。火山特有の硫黄が浸み出した大地や噴き出す蒸気などが、どこか非日常を感じさせるものだったのかもしれません。
そうした特色は現在、観光資源として地元や自治体を潤すものとなりました。
ウォノソボの観光資源は、主に三種類に大別されています。自然物、人工物、文化です。
自然物というのは、火口、湖、温泉、滝といった大自然そのものを楽しむものです。トレッキングスポットとなっている山やキャンプ場などもこれに含まれます。代表的なものとして、シキダン地熱帯(Kawah Sikidang)、ワルナ湖(Telaga Warna)、シクニール丘陵(Bukit Sikunir)、ビスモ山(Gunung Bismo)などが挙げられます。
シキダン地熱帯
ワルナ湖
地熱帯はディエン高原全体にたくさんありますが、観光地として公開されているものはそのうちの一部に過ぎません。有害な火山性ガスが発生する危険性があるからです。専門家たちが定期的に計測を行い、比較的安定していてガスの成分も安全だと判断された箇所がシキダン地熱帯などです。
また、ラフティングやパラグライダーといった大自然の中で楽しむレジャースポーツなども登場しており、アウトドア好きな人たちの関心を集めています。
人工物とは、テーマパークなどのように人の手で作られた観光スポットのことです。ちょっとした公園にアスレチックや写真スポットを設けた施設がこの何年かで増えているのですが、とくにシンドロ・スンビン・パーク(Sindoro Sumbing Park)という施設が人気です。前述の自然系スポットは主に遠方からの観光客が訪れるのに対し、こうしたパークは地元の人に楽しまれています。
また、一見自然物に見えても、ワダスリンタン湖(Waduk Wadaslintang)などは貯水池であるため、人工物に含まれます。
文化というのは、文化遺産や地域に根付く習慣、儀式などを観賞するものです。
ディエン高原の観光スポットの中で最も有名なのが、ヒンドゥー教の寺院遺跡群ではないでしょうか。
8世紀頃のものと見られており、マグラン県のボロブドゥール遺跡よりも前の時代のものになります。修復もされて比較的状態の良いアルジュナ寺院群(Kompleks Candi Arjuna)はアクセスも簡単で、近くには出土した神像などを展示している資料館もあります。
複数の寺院を比較して見ると、南インドの建築様式が顕著に表れているものから、徐々に独自のデザインへと変遷を遂げているとのこと。当時の文化変容が偲ばれますね。これら寺院遺跡群については、またいつか別途まとめてご紹介したいです。
他にも、各村落で細々と行ってきた祭りや儀式のうち、一般公開されているものの見学、観光村(Desa Wisata)での昔ながらの暮らしの体験、レトロを意識したマーケットなど、多様な文化事業が出現しています。
毎年行われているディエン・カルチャー・フェスティバルは自治体から発信したもので、地域の独自の文化、風習を全面的に押し出しています。
文化とは、伝統的に受け継がれてきたものだけではなく、新しくアレンジが加えられたもの、クリエーションされたものも指すものです。
これらのほか、たとえばお茶畑の見学などのアグロツーリズムは自然物、人工物、文化の3つの側面を併せ持っていると言えます。
(以下に続く)
- 観光開発の裏側
- オルタナティブ・ツーリズムに移行するか?
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