よりどりインドネシア

2021年05月07日号 vol.93

内閣改造とインドネシア版シリコンバレー構想 ~キーパーソンはメガワティ元大統領~(松井和久)

2021年05月07日 22:37 by Matsui-Glocal

2021年4月28日、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領は内閣改造を発表しました。まず、投資調整庁(BKPM)が投資省に昇格し、バフリル・ラハダリア(Bahlil Lahadalia)長官が大臣に就任しました。

次に、教育文化省に調査研究技術省を統合して教育文化・調査研究技術省とし、ナディム・アンワル・マカリム(Nadiem Anwar Makarim)教育文化大臣が新大臣になりました。バンバン・ブロジョヌゴロ(Bambang Permadi Soemantri Brodjonegoro)調査研究技術大臣は新首都担当大臣に就任すると見られていましたが、古巣の国立インドネシア大学へ教授として戻りました。

さらに、これまで調査研究技術大臣が兼任し、調査研究技術省とクロスしていた国家イノベーション調査研究庁(Badan Riset dan Inovasi: BRIN)が大統領直属の独立機関となり、新長官にラクサナ・トゥリ・ハンドコ(Laksana Tri Handoko)国家科学研究院(LIPI)長官が就任しました。

今回の内閣改造はこの3件のみです。一見すると政党色も薄く、単なるマイナーチェンジのように見えますが、実は、重大な政策変容が反映された人事でした。しかも、無関係のように見えるこの3件は、互いに結び合っていました。

一方、この内閣改造の少し前に、メディアに突然のように現れたのが、民間企業によるインドネシア版シリコンバレー構想でした。西ジャワ州スカブミ県に「アルゴリズムの丘」(Bukit Algoritma)という名の「シリコンバレー」をつくるという構想で、旗振り役はブディマン・スジャトミコ(Budiman Sudjatmiko)という闘争民主党所属の国会議員です。

インドネシアにシリコンバレーをつくる、というのは何だか突拍子もない構想のように見えますが、DX、インダストリ4.0などの掛け声に代表される新技術主流の流れを取り込もうとするジョコウィ政権との親和性は、意外にあるような感じもします。コロナ禍が長引き、投資や技術などでベトナムにも後れを取ったと焦るインドネシアは、こうした新技術で一気に今の停滞状況を飛び越えたいという願望が見え隠れしています。

内閣改造とインドネシア版シリコンバレー構想と、あまり関係ないような内容を並列させているように見えますが、実は大きく関係していると筆者はみています。それはなぜなのか。以下でその理由を明らかにしていきますが、実は、インドネシアの科学技術政策が根本的に変わる可能性が高く、そのなかで、内閣改造とインドネシア版シリコンバレー構想が明確に結びつく様子が見えるのです。そのカギを握る人物は、闘争民主党党首のメガワティ元大統領です。

●インドネシア版シリコンバレー構想

2021年4月初め、ブディマン・スジャトミコ氏は「アルゴリズムの丘」(Bukit Algoritma)という名のインドネシア版シリコンバレー構想をメディアに発表しました。

それによると、西ジャワ州スカブミ県チキダン地区に面積888 haの用地を確保し、総投資額35.8兆ルピアを投じ、11年の歳月をかけて完成させます。第一弾として、18兆ルピアを投じて、最初の3年でアクセス道路、水道、発電所などのインフラを整備し、完成すれば、33万1,800人の雇用を生み出す予定ということです。国家予算は使わないとしていますが、コントラクターには国営企業のPT. Amarta Karyaを指名しました。

ブディマン氏によると、構想自体は2017年頃からあったと言います。この用地は元々、ブディマン氏と共同する実業家ダニー・ハンドコ(Dhanny Handoko)氏が所有するオイルパーム農園だった土地で、この構想が出たときから、西ジャワ州政府へ特別経済区域(Kawasan Ekonomi Khusus: KEK)として指定するよう申請してきました。

この「アルゴリズムの丘」では、観光、アグリカルチャー4.0、プレシジョン・ヘルス(精密保健)、先進テクノロジー・フュージョン、持続的ライフスタイルなどを意識し、ナノテク、バイオ、セミコンダクター、EV用蓄電池など、次世代最新技術を駆使した産業や投資の誘致を目指しています。ブディマン氏によると、すでに欧米やアジアの投資家がインドネシア版シリコンバレー構想への投資に興味を示しているということで、レバラン後、建設に取り掛かる予定のようです。

インドネシア版シリコンバレー「アルゴリズムの丘」構想図。(出所)https://ekbis.sindonews.com/read/397778/34/ini-syarat-agar-bukit-algoritma-bisa-sesukses-silicon-valley-1618463079

ところが、インドネシア版シリコンバレー構想は、ブディマン氏が言うほどすんなりとは進まない様子です。

そもそも、2017年から申請している特別経済区域(KEK)指定がまだ認められていません。お膝元のスカブミ県知事は、特別経済区域(KEK)指定もまだなので、通常通りの事業許可を取る必要があるが、県としてはまだ何も許可を出していないことを明らかにしました。また、西ジャワ州開発企画局(BAPPEDA)も、「この構想については何も聞いていない」と述べています。果たして、インドネシア版シリコンバレー構想はどこまで現実的なものなのでしょうか。

(次に続く)

  • ブディマン・スジャトミコ氏とは何者か
  • 国家イノベ―ション調査研究庁(BRIN)
  • カギを握るのはメガワティ元大統領
  • 科学技術政策は大きく変わる
  • 政治とビジネスとの関係
  • 調査研究・科学技術の軽視は続く
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