よりどりインドネシア

2021年04月23日号 vol.92

レバラン帰省禁止期間はなぜ急遽延長されたのか(松井和久)

2021年04月23日 14:42 by Matsui-Glocal
2021年04月23日 14:42 by Matsui-Glocal

断食月に入ったインドネシア。新型コロナウィルス感染拡大で昨年は帰省できなかったイスラム教徒たちは、今年こそ、実家へレバラン帰省して、断食明け大祭(イドゥル・フィトゥリ)を一族みんなで祝いたい、とこの1年、ずっと願い続けながら耐え忍んで過ごしてきたことでしょう。

国内ではワクチン接種も始まり、医療従事者や政府高官などを優先してすでに1100万人以上が1回目の接種を終え、600万人以上が2回目の接種を終えました。新規感染者の数も一時期よりだいぶ減り、陽性率も減少傾向が続いています。このまま行けば、新型コロナは今年の半ばぐらいには終息しそうな感じさえいだきます。

それなのに、今年もまた、インドネシア政府は、断食明け大祭に伴う帰省を禁止しました。しかも、その期間を急遽、延ばしたのです。

当初、2021年4月7日付新型コロナ対策チーム長回状2021年第13号では、レバラン帰省禁止期間を5月6~17日の12日間としていました。それが、4月21日付の同回状補遺で、同期間を真ん中に、その前の2週間(4月22日~5月5日)と後ろの1週間(5月18~24日)を移動禁止期間として加えたため、レバラン帰省禁止期間は全体で2021年4月22日~5月24日までとなりました。

インドネシアでは、今回のように、政府によって規則や規制がいきなり変更されることは決して珍しいことではありませんが、今回のこのレバラン帰省禁止期間の延長はあまりにも突飛な印象を受けます。

つい数日前までは、5月6日よりも前にレバラン帰省するのは認める、と言っていたのです。そのつもりで、帰省準備を進めていた人も少なくなかったに違いありません。しかも、数字のうえでは、新型コロナウィルスの感染拡大はかなり下火になってきているように見えます。昨年よりもずっと状況は良さそうに見えるのに、どうして今年のほうがレバラン帰省禁止期間を延長し、監視も厳しくしようとしているのでしょうか。

今回は、インドネシア政府がレバラン帰省禁止期間を急遽延長し、新型コロナ対策を昨年よりもむしろ強化しようと動く背景について考えてみます。

その前に、新型コロナ対策チーム長回状2021年第13号に基づき、今回のレバラン帰省禁止措置の内容についてざっと見ておきます。

新型コロナ禍以前のレバラン帰省風景。(出所)https://www.motorplus-online.com/read/252619926/breaking-news-mudik-lebaran-2021-resmi-dilarang-ternyata-ini-alasannya

●レバラン帰省禁止措置の内容

まず、対象期間中の陸・海・空運(公共交通機関もバイクを含む自家用車両等も)を利用した県市・州・国を超えた移動は禁止されます。ただし、業務出張、家族の病気見舞い、家族の葬儀、妊娠中の者と1人の同行者、乳児を出産した者と2人の同行者の移動は認められます。

移動にあたっては、業務出張では公務員等級2級(Eselon 2)や企業幹部、その他では居住地の村長・区長の自筆署名・捺印のある移動許可書(往復1回限り、17歳以上対象)をプリントアウトしたものを持参する必要があります。

また、ジャカルタ首都圏(Jabodetabek)、メダンとその周辺(ビンジャイ、デリ・スルダン、カロ)、大バンドン圏、スマランとその周辺(クンダル、デマック、ウンガラン、プルウォダディ)、大ジョグジャカルタ圏、大ソロ圏、スラバヤとその周辺(グレシック、バンカラン、モジョクルト、シドアルジョ、ラモンガン)、マカッサルとその周辺(スングミナサ、タカラール、マロス)の大都市圏内での移動は禁止措置が適用されません。

レバラン帰省禁止期間中の国内移動に関しては、移動許可書に加えて、以下の検査による陰性証明が必要となります。

移動許可書、およびPCR迅速検査(RT-PCR)・迅速抗原検査・吐息検査(Genose)による陰性証明のチェックは、到着地点、休憩所のコントロールポスト、大都市の境界、その他チェックポイントで軍・警察と地方政府によって行われます。

空路・海路での移動の場合には、保健省の電子ヘルスアラートカード(e-HAC)に必ず記入することになりますが、他方、陸路での移動の場合は義務ではありませんが、記入することが望ましいとされています。

なお、5歳以下の子どもはPCR迅速検査(RT-PCR)・迅速抗原検査・吐息検査の対象外とします。また、検査で陰性でも、咳などの症状が見られた場合には移動は認められず、通常のPCR検査を受けることになります。

それにしても、最初の回状が発出された2021年4月7日と回状補遺が出された4月21日のわずか2週間に、レバラン帰省禁止期間を大幅に延長することに決めたのはなぜだったのでしょうか。実は、その間に深刻な理由が生じたのです。

(以下に続く)

  • 変異株の検出
  • 中国製ワクチンへの疑問
  • ヌサンタラ・ワクチン騒動
  • インドネシアの新型コロナ禍は収束へ向かうのか
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