よりどりインドネシア

2021年01月22日号 vol.86

新型コロナワクチン接種は拙速だったか(松井和久)

2021年01月23日 15:56 by Matsui-Glocal

インドネシアの人々と一緒に活動していて、計画や段取りを固めたり、何回か試してみたりする前にとにかく実行してしまう、といった経験をお持ちの方は、けっこういるのではないでしょうか。そして、実行してから失敗する、ちょっと手直ししてすぐやり直す、(また)失敗する、という繰り返しによくなります。考えてから動くか、動いてから考えるか、そんな違いが頭をよぎります。

今回のインドネシアの新型コロナワクチンをめぐる動きをみながら、そんなことを思っていました。ワクチンはこと人体に関わるものであり、慎重に慎重を期して、その開発には十分な時間と労力が必要となるはずですが、新型コロナウィルスの急速な拡大を前に、ワクチン開発が時間との勝負になってしまう面がどうしてもあります。

2021年1月13日、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領が新型コロナワクチンを接種する映像は、世界中のメディアへ流れました。ジョコウィ大統領は、新型コロナワクチンの国内での接種第1号となることを宣言していたのです。そして、「安全でハラールなワクチン」と書かれた赤い垂れ幕の前で、それを実行しました。接種する医師の手の震えが印象的な映像でした。

国内での新型コロナワクチン接種第1号のジョコウィ大統領。(出所)https://nasional.kompas.com/read/2021/01/21/12091881/jokowi-vaksinasi-covid-19-mandiri-mungkin-bisa-diberikan-asal-merek-beda?page=all

ジョコウィ大統領は、国民に対してワクチン接種を呼びかけ、国民はインドネシアで新型コロナワクチン接種が本格的に始まったと受け止めました。SNSに「私はワクチンを接種します」という宣言メッセージを提示する者も現れました。摂取されたワクチンは、中国のシノバック社(科興控股生物技術公司)製の「コロナバック」という名のワクチンでしたが、このワクチンは、実は、まだ臨床試験第3相試験の結果が出ていないワクチンでした。

臨床試験第3相試験は、多数の患者に対する安全性と有効性を確認するための試験です。日本で医薬品やワクチンの開発では通常、この臨床試験第3相試験を終了した後、国に対して承認申請を行い、国による承認審査を経て、ようやく製品化されます。

新型コロナウィルスという未知のウィルスに対するワクチン開発は、世界中の医薬品メーカーがしのぎを削っており、急速な感染拡大を背景に、各国とも緊急事態であるとして、通常の医薬品やワクチンの承認プロセスを短縮化・簡略化しています。インドネシアも例外ではなく、このワクチン接種は、国家食品医薬品監督庁(BPOM)による緊急使用許可に基づいて行われました。

連日、新規感染者が1万人前後で増え続けるなかで、新型コロナワクチンに感染収束の一縷の望みをかける政府。とにかく早く、ワクチン接種を進めたいという急ぐ気持ちが熱く伝わってきます。その一方で、急ぎすぎではないか、本当に大丈夫なのか、という心配も頭をよぎります。

果たして、インドネシアの新型コロナワクチン接種は拙速だったのでしょうか。今回は、このテーマに迫ってみます。

●新型コロナワクチン接種の直前

1月13日にジョコウィ大統領が第1号として新型コロナワクチンを接種する直前、政府内部では実はかなり緊迫した状況がありました。当初、ジョコウィ大統領は、2020年末までにワクチン接種を開始すると宣言してきました。しかし、国家食品医薬品監督庁(BPOM)は認めず、2021年にずれ込みました。

ワクチン接種を始めるにあたって、懸念した点が大きく2点ありました。ワクチン自体の安全性・有効性、そしてハラール認証の問題でした。

イスラム団体の頂点に立ち、ハラール認証にお墨付きを与え、イスラム法学に基づく布告(ファトワ)を出すイスラム・ウラマー審議会(MUI)は、1月4日、この中国製の新型コロナワクチンがハラールかどうかを議論していました。そして、ワクチン自体だけでなく、その製造過程における原材料、生産器具などについてもハラールかどうかを検討し、豚や犬由来の成分がないことを証明する明確な説明文書を製造者のシノバック社へ求めました。

1月8日、シノバック社製の新型コロナワクチンは「ハラールで聖なるものである」と発表しました。

一方、政府内部では、国家医薬品評価委員会(Komite Nasional Penilai Obat)と国家食品医薬品監督庁(BPOM)との間で、ワクチンの安全性や有効性をめぐって激しい議論が何度も繰り返されていました。1月10日は第4回会議で6時間以上議論が行われました。そして、1月11日、国家食品医薬品監督庁(BPOM)は、シノバック社製の新型コロナワクチンに緊急使用許可を出しました。緊急使用許可ということで、新たな結果や状況となれば許可の取り消しを含む変更を行うとしました。

ハラール認証の問題を解決し、国家食品医薬品監督庁(BPOM)の緊急使用許可が発出されたことで、シノバック社製の新型コロナワクチンの接種にゴーサインが出されました。

シノバック社製の新型コロナワクチン「コロナバック」。(出所)https://www.cnbcindonesia.com/tech/20201228194850-37-212072/belum-rilis-hasil-uji-klinis-vaksin-sinovac-jadi-sorotan

(以下に続く)

  • 有効性への大きな疑問
  • なぜシノバック社製のワクチンなのか
  • シノバック社製以外の新型コロナワクチン調達への道
  • ワクチン接種は迅速に進められるか
  • 吉と出るか凶と出るか
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