轟(とどろき)英明 様
前回轟さんも仰った通り、ジャカルタでも一部映画館(CGVシネマズなど)は再開しましたが、新作インドネシア映画はまだ上映に至らず、最大手の21シネプレックスが再開するまで、もう少し我慢が必要のようですね。
このため私は今回、読者の皆さんも鑑賞できるネットフリックスで配信されている作品についてお話ししたいと思います。ただ、日本とインドネシアでは配信作品が異なり、その違いについては把握できないため、日本で見られない作品の場合、ご容赦ください。
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前回からの轟さんのスポーツ映画の流れで、私も『僕の胸のガルーダ』(Garuda di Dadaku / 2009年公開)を取り上げたいと思います。サッカー少年の成長を描いた物語で、人気スポーツ・サッカーものであることも手伝って当時ヒットし、続編『僕の胸のガルーダ2』(Garuda di Dadaku 2 / 2011年公開)も公開されています。
主人公の小学6年生のバユは、ジャカルタの下町に住むサッカーが大好きな少年で、映画冒頭のボールを蹴りながら下町の路地を駆け抜けるシーンは、日本の人気漫画「キャプテン翼」の冒頭部分を思い起こさせるほど主人公のサッカー好きが表現されていて、気持ちよく物語に入り込めます。
元ナショナルチームの選手だった亡き父親に憧れ、自分も選手になりたいと夢見るバユですが、同居の祖父は、かつてバユの父親がプレー中に大怪我をし、転職にも苦労した経験から、バユにサッカーを禁じる一方、絵画や音楽、学習塾などに通わせ、孫の別の才能を伸ばしたいと期待します。こうしたなか、バユにとって一番の理解者が親友のヘリで、自らが車椅子の生活であることから、自分の夢もバユに託すかのように、彼を全面的に応援、励まします。
ナショナルチームに入る近道は、クラブチームでセレクションを受けることだ、とのヘリの提案で、バユはクラブチームの奨学特待生の試験を目指し、見事クラブ入りを果たします。しかしある日、祖父に隠してきたサッカー活動を知られてしまい、祖父がショックで倒れてしまったことから、事態は急変します。自分のせいで祖父を入院させてしまった罪に苦しみ、サッカーをやめようとするバユ、夢を諦めないよう励ますもののバユと溝ができてしまうヘリ。バユはこの困難を乗り越えられるか、物語は佳境へ入ります。
『僕の胸のガルーダ』第1作(写真上)と第2作(写真下)ポスター(film Indonesiaホームページよりhttp://filmindonesia.or.id/)
少年スポーツものではありがちかもしれませんが、サッカーを通しての親子愛、友情が気持ちよく描かれた、スポーツの王道映画ともいえそうです。主人公のバユ自身、祖父に嘘をつきながらこっそりとサッカーをしながらも、祖父の自分に対する愛情ゆえの期待を理解していることは観ていて十分伝わります。
そして、バユとヘリの関係の本質をつく言葉が、意外なことにヘリの専属ドライバーから発せられることも、本作の興味深いところです。祖父が倒れ、バユがサッカーをやめると言ったため喧嘩した後、ヘリが自宅で苛立っている時にドライバーが敢えて何かのついでかのように言います。
「そういえば、サッカーをやめたら、君たちの友情も終わってしまうのかい?」
彼は車椅子のヘリを手伝い、常に付き添っていることから、彼らの友情関係を一番知る一人でもあります。サッカーを通してバユとの交友を深めてきたヘリですが、一番大切なものは何かを気づかせる、とても気の利いた一言でした。それとともに、本作品の大きなメッセージのひとつでもあったといえそうです。
バユが個人的にサッカーの練習場とした墓地の空き地のシーンがありますが、背景にあるマンションが、おそらく私が2000年前後に住んでいた場所と思われ、ロケ地は、ジャカルタ中心部近くの南ジャカルタ、クニンガン地区であるとみられます。
ジャカルタ中心部は(轟さんには言うまでもありませんが)、日本で言えば、東京や大阪以外では太刀打ちできないほど高層ビルが立ち並ぶ都市ですが、その高層ビルの裏側、周辺部には未だに昔ながらの下町が広がっています。決して裕福とは言えない住宅街の一角に住むバユ。同じ学区だからそう遠くない高級住宅街に住むヘリ。クニンガン地区南部のカサブランカ通り周辺に広がる墓地。映画は華やかな高層ビル群の一方で繰り広げられる現在の都市庶民の生活をも描いています。
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さて、本作品の続編『僕の胸のガルーダ2』では、バユは念願のナショナルチームの一員、それもキャプテンとして登場しますが、第1作を上回る様々な困難が降りかかります。バユは、前作では常に温かく見守ってきてくれた自分の母親に、仕事のパートナーの男性と仕事以上の感情があることに気づいて、疎外感を感じる。学校では成績が芳しくないなか、成績を大きく左右するグループ研究とサッカーの練習の両立に苦しむ。肝心のサッカーでも、自分がキャプテンになってからチームが勝てない焦燥感が高まるのに加え、優秀な新加入メンバーが親友であるヘリと自分以上に親しくなったように思えて嫉妬する。
勿論、前作以上にサッカーのプレーシーン、試合シーンがあり、サッカー色は強まります。自ら切磋琢磨し、プレーで自分に打ち勝つことで、主人公に降りかかった諸問題を乗り切る展開は、まさにスポーツ映画ならではであり、スポーツ特有の尊さであるともいえます。最後には、東南アジア・トーナメントで国の代表として試合に臨む主人公ですが、ナショナリズムよりもあくまでバユと彼を取り巻く人々との人間ドラマが中心となって展開しているところが前作に見劣りしない所以かと思われます。
本作品『僕の胸のガルーダ』のように、ヒットしたことで続編が制作されることは、インドネシアを含め世界中に多数ありますが、ほとんどが前作を凌げない内容に終わっています。インドネシア映画でいえば日本でも公開された大ヒットアクション映画『ザ・レイド』(The Raid / 2012年公開)でさえ、日本人俳優の参加した続編は設定に若干無理も感じられ、残念ながら前作ほどの興奮には至りませんでした。
その意味で、『僕の胸のガルーダ』はパート1、2と主人公の成長、サッカーキャリアのステップアップと、物語が一貫して進むなかで、主人公が経験する人間関係の問題がより複雑化していく点、そして主人公の成長が無理なく描かれていることで、パート2がより魅力ある作品となっている要因の一つかといえそうです。まさにパート1のテーマがパート2で発展かつ内容が成熟した数少ない連作になっているといえます。
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スポーツ映画からは外れてしまいますが、ちょうどネットフリックスで配信中のラブロマンス映画『#親友は結婚できるのか』(# Teman tapi Menikah / 2018年公開)も1、2とありますが、ジャンルが全く異なるものの興味深いことに『僕の胸のガルーダ』と同じことがいえます。
『#親友は結婚できるのか』第1作(写真上)、第2作(写真下)ポスター(film Indonesiaホームページよりhttp://filmindonesia.or.id/ )
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