よりどりインドネシア

2020年10月07日号 vol.79

ラサ・サヤン(10): ~インドネシア人の諺~(石川礼子)

2020年10月07日 21:15 by Matsui-Glocal
2020年10月07日 21:15 by Matsui-Glocal

どこの国にも「諺(ことわざ)」はありますよね。インドネシアにもたくさんの諺があります。インドネシア語で「諺」は “Peribahasa”と言います。その意味を見てみると、「比較、喩え、アドバイス、人生の原則あるいは行動指針を含む簡潔な句または文」となっています。

それでは、日本語の「諺」の意味はどうでしょう。大辞林・第三版には「昔から人々の間で言いならわされた、風刺・教訓・知識・興趣などをもった簡潔な言葉」と書かれています。

日本の諺の多くは中国の古典や仏教の経典に由来し、事なかれ主義で保守的なものが多いようです。また、農耕民族ゆえか、農業や漁業、四季や天候に関連したものが多いのが特徴です。

それに比べて、西洋では聖書の「箴言(しんげん)」や「福音(ふくいん)書」に基づくものや、ギリシャ・ローマの古典に由来するものが多いようです。イギリスでは、劇作家ジェークスピアの作品に諺となる表現が多く見られ、16~17世紀に諺が好まれて使われました。世界どの国にも諺はありますが、形式的には語呂の良さが求められたようです。

それでは、インドネシアの諺はどうでしょう。

●「郷に入っては郷に従え」

私が初めてインドネシアの諺を聞いたのは、インドネシア語の先生からでした。「郷に入っては郷に従え」という諺について話したとき、先生が「インドネシアにも似た諺がある」と教えてくれたのが下記の諺でした。

Di mana bumi dipijak, di situ langit dijunjung / (訳)大地を踏むところの大空を尊重すべし = 自分がいる場所の習慣や決まりを遵守しなければならない

Masuk kendang kambing mengembik, masuk kendang kerbau menguak / (訳)山羊小屋に入れば、山羊はメーと鳴き、水牛小屋に入れば水牛はモーと鳴く = 場所と状況に応じて自分を適応させる

「郷に入っては郷に従え」は、英語にも同意の諺があります。“When in Rome, do as the Romans do”(訳:ローマにいる時はローマ人のように振るまえ)です。探せば、同じ意味の諺は他の国にもあるのかも知れません。

●日本の諺に似たインドネシアの諺

下記に、インドネシアの諺で、意味が日本の諺に似たものを下記に紹介します。

火の無い所に煙は立たない / Ada asap ada api (直訳)煙があれば、火がある

一難さってまた一難 / Ada bukit di balik pendakian (直訳)山を登ったら、その後ろに丘がある / Lepas dari mulut harimau jatuh ke mulut buaya (直訳)虎の口から逃げたら、ワニの口に落ちる

綺麗なバラには棘がある / Ada rotan, ada duri (直訳)籐には棘がある

高級家具等に使われる籐の蔓にはトゲがある

恩を仇で返す / Air susu dibalas dengan air tuba (直訳)母乳をトバ(*)の水で返す

* トバ:マメ科のつる性常緑木本。東南アジア原産。根はロテノンなどの殺虫成分を含み,デリス根といって農業用駆虫剤の原料とされる。東南アジアでは根を砕いて川に流し魚を捕らえたり、矢の毒に使ったりした。(三省堂「大辞林」)

棚からぼたもち / Bagai mendapat durian runtuh (直訳)落ちたドリアンを取るごとく

トゲのあるドリアンが頭の上に落ちてきたら、「棚ぼた」どころか、大怪我してしまいますよね(笑)

東南アジアが原産地のドリアン

親の背を見て子は育つ / Bagaimana dicetak, begitulah kuenya (直訳)どのように型を取るかで菓子が決まる

木を見て森を見ず / Gajah di pelupuk mata tak tampak, semut di seberang lautan tampak (直訳)目の前の象は見えず、海を渡る蟻は見える

己の欲せざる所は人に施す勿れ(諺ではなく『論語』にある孔子の言葉)/ Jangan mencubit kalau tidak mau dicubit (直訳)つねられたくなければ、つねるな

口は口、心は心 / Lain di bibir lain di hati (直訳)別の唇、別の心

若い時の苦労は買ってでもせよ / Menjemur sementara hari panas (直訳)暑い日の間に乾かす

覆水盆に返らず / Nasi sudah menjadi bubur (直訳)ご飯が粥になった

飼い犬に手を噛まれる / Pagar makan tanaman (直訳)フェンスが植木を喰う

骨折り損のくたびれもうけ / Pisang ditanam tak berjantung(直訳)バナナの心臓(*)なしでバナナを栽培する

* バナナの心臓:バナナの花のつぼみ

バナナの心臓と呼ばれるバナナの花

隣の芝生は青い / Rumput tetangga lebih hijau daripada rumput sendiri (直訳)隣人の草は自分の草より緑が濃い

転ばぬ先の杖 / Sedia payung sebelum hujan (直訳)雨が降る前に傘を用意する

猿も木から落ちる / Sepandai-pandai tupai melompat, sekali waktu jatuh juga (直訳)上手く飛ぶリスも時には落ちる

弱い犬ほどよく吠える / Tong kosong nyaring bunyinya (直訳)空のドラムは大きな音を出す

 

この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

いんどねしあ風土記(53):世界遺産「ジョグジャカルタ哲学軸」が示すもの ~ジョグジャカルタ特別州~(横山裕一)

2024年04月23日号 vol.164

ウォノソボライフ(73):ウォノソボ出身の著名人たち(2) ~女優シンタ・バヒル~(神道有子)

2024年04月23日号 vol.164

ロンボクだより(110):晴れ着を新調したけれど(岡本みどり)

2024年04月08日号 vol.163

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)