“Babad Tanah Jawi” に収録されている羽衣伝説は、ジャワを中心に広く知られる民話でもある。
現在の中ジャワ州山間部のタルブ(Tarub)という村に住む若者Ki Jaka Tarubが、ほとんど人が踏み込むこともないような森の中の泉で天女たちが水浴びをしているのを見つけ、その衣を一重ね隠したために、衣を失った天女は天に帰れなくなり、Ki Jala Tarubの妻となって、一女をもうける。天女は川へ洗濯に行っている間に留守番をする夫に、「飯を炊いている釜の蓋を開けてはならない」と言い置いていくが、夫がその言いつけに背いて開けてしまったため、一粒の米(実のついた稲一本というバージョンもある)を一釜の飯に炊き上げる不思議な力を失ってしまう。やがて天女は、稲倉に夫が隠しておいた衣を見つけて怒り、夫と幼子を残して天へ帰ってしまう、という話だ。
Ki Jaka Tarubが衣を隠したことを秘密にして、こっそり家から養母の衣服を持って泉に戻り、衣を失くして途方にくれ、「もしもどなたかが私に衣をくださったら、私はその方の妻となります」と独りごちる天女の前に姿を現して、さりげなく養母の衣服を差し出す、という伝承もあるらしい。このバージョンでは、後になって実は衣を隠した犯人は夫だったと知った天女が怒り狂って子どもを残して天へ帰ってしまっても無理はない、と物語の聞き手たちも納得する仕組みとなっている。
この羽衣伝説には、実は天女は人間で、スンダから来たブラフマナ(バラモン)の娘だった、という異説がある。この異説を展開しているのは、Damar Shashangka著『Sabda Palon: Tonggak Bumi Jawa』である。マジャパヒト朝後期を舞台とする歴史小説で、『Tonggak Bumi Jawa』はその第5巻に当たる。
この物語の中で、「天女」の夫となったKi Gedhe Tarub(Kyai Ageng Tarub)が、娘のRara Nawangsihに、養子であり弟子でもあるBondan Kejawanとの結婚を勧める前提として、「実はおまえのほんとうの素性は・・・」と語り始める。
(以下に続く)
- ブバットの戦い
- Ki Ageng Kasihanの幻視
- スンダの娘
- 破られた約束
- 守護者(Sang Pamomong)について
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