“Babad Tanah Jawi”という書がある。イスラム・マタラム王国時代の17~18世紀ごろに編纂された、ジャワの王朝の移り変わりを物語ったものだ。一応「史書」という位置づけになっているようだが、とくにマタラム以前の王朝史を語った部分に関しては、マタラム王家の血筋を正統化するために書かれており(日本の古事記、日本書紀を含めて、史書は大概そういうものだ)、神話や民間伝承を多く含んでいるので、史料としての価値はさほど高くない、というのが一般的な見方のようだ。
原文はジャワ語の韻文で、活字化されたBalai Pustaka版(1939年)がYayasan Sastra Lestariのサイトで公開されている。なんとか読んでみたいところだが、日常的なジャワ語会話なら聴けばちょっとはわかる程度の筆者のジャワ語力では、あまりにハードルが高すぎる。これをそのままインドネシア語に訳したものがないかと探しているけれど、今のところ見当たらない。ご存じの方がおられれば、ぜひご教示いただきたい。Wikipediaによると深見純生氏が日本語に翻訳されているが、紀要に掲載されたらしく、どうも一般人が簡単にアクセスできるものではなさそうだ。
インドネシア語の散文の形に編集したものなら、いくつかあるらしい。その一つで、おそらくもっとも手に入れやすいのは、1941年にオランダで出版されたW. L. Olthof編集版のインドネシア語訳だろう(HR Sumarsono訳、Narasi、2007年。2016年出版のポケット版もある)。
W.L. Olthof編 “Babad Tanah Jawi”のインドネシア語版
これをつらつら読んでいたら、羽衣伝説に行き当たった。マジャパヒト朝後期(15世紀後半)の話として収録されている。あらすじは以下の通りである。
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