よりどりインドネシア

2020年04月23日号 vol.68

インドネシアと新型コロナウィルス対策(4):地方の人々は伝統や慣習法でどう立ち向かおうとしているのか(松井和久)

2020年04月23日 20:39 by Matsui-Glocal

インドネシアの新型コロナウィルス感染は、感染者数や死者数の増加が止まらないだけでなく、首都ジャカルタやジャワ島の都市部から地方へと拡散が進んでいます。本誌の別稿でも触れたように、地方での二次感染・域内感染が知らぬ間に広がっていく気配が出ています。

インドネシア政府は、人と人との密接・密集を避けるフィジカル・ディスタンスや手洗いの励行などを国民に繰り返し説くとともに、不要不急の外出を避けることを強く求めています。感染者の増加が予想される地方都市では大規模社会的制限(PSBB)を適用し、大統領が断食月における帰省の禁止を発表しました。治安当局が大規模社会的制限などへの違反者を処罰できる強制力をちらつかせながら、感染の拡大を可能な限り抑えようと努めています。

他方、前号「よりどりインドネシア」第67号(2020年4月8日発行)で指摘したように、インドネシアの医療人材・体制が不十分なことから、医療崩壊の危険性が高い状態になっているか、すでに起こっている可能性が考えられます。とくに、医療人材・体制が首都ジャカルタに比べて遥かに貧弱な地方で感染が拡大すると、収拾のつかない事態になることが容易に予想できます。

ついこの間まで、どこかよそ事だった地方の人々も、実際に感染者が現れるようになると、新型コロナウィルスに対する恐怖心を急速に高める状況になっています。人々のなかには、自分たちのコミュニティが先祖代々伝えてきた伝統の知恵や慣習法を動員し、自分たちのできる範囲で対応しようとし始めています。

本稿では、そんな地方の人々なりの対処法のいくつかの例を見ていきます。なかでも、後述のダヤックの事例とリンバの人々の事例は、新型コロナウィルス対策の観点からとくに示唆に富んだ事例だと思われます。

●疫病退散のための様々な対処法

南スラウェシ州ルウ県ボネレモ村では、女性たちが集まり、シリーと呼ばれるキンマの葉(daun sirih)とレモンを混ぜた液体をつくります。これは自然素材の生薬で、これを吸入することで、自らを清めるとともに、悪霊を退散させることができると信じられています。新型コロナウィルス対策として、村人はこの先祖伝来の生薬を活用することを全会一致で承認しました。長老たちには、かつて死者の埋葬が終わらないうちに新たな死者が来るということを経験した記憶があるということです。

キンマの葉とレモンで生薬を作っている人々。(出所)https://www.bbc.com/indonesia/indonesia-52242436

中ジャワ州ソロの王宮のある家では、家の戸の上に、ジャワでの儀式によく使われるアランアランの葉とオポオポの葉を吊るします。これも先祖代々伝えられているもので、ジャワ語の「何も起こらないように」という言葉に2つの葉の名前(アランアラン、オポオポ)を掛けており、疫病や悪霊が外から入らないようにという呪いです。中ジャワ州と東ジャワ州のソロ王宮と関係のある王宮では同様の呪いが3月21日に行われたということです。

戸の上に吊り下げられたアランアランの葉とオポオポの葉。(出所)https://yogyakarta.kompas.com/read/2020/04/14/06100011/perangi-corona-dengan-kearifan-lokal-masak-sayur-nangka-hingga-disinfektan?page=all

ソロやジョグジャカルタでは、7つの素材の入ったサユール・ロデ(野菜煮込み)を食べるという昔からの風習もあります。サユール・ロデに入る7素材とは、タネアリパンノキ(kluwih)、ナス、グネモン(melinjo)の皮、カボチャ(waluh)、グネモンの葉(daun so)、テンペ、ジュウロクササゲ(cang gleyor / kacang panjang)です。日本の七草みたいですね。このサユール・ロデを食べて、新型コロナウィルスに対抗するという人々が結構いるようです。

7つの素材とサユール・ロデ。(出所)https://radarkediri.jawapos.com/read/2020/04/03/186988/sayur-lodeh-tujuh-rupa-bergizi-tinggi-bisa-perkuat-imun

ソロ市のハディ・ルディヤトモ市長は、市政府の幹部とともに、頭を丸刈りにしました。丸刈りにするのは自身を清めることであり、新型コロナウィルス対策なのだそうです。筆者には意気込み以上の意味を見出せませんが、市長によれば、これもソロ市が新型コロナウィルスに感染されないための伝統なのだそうです。

頭を丸刈りにするソロ市の市長(左)と副市長(右)。(出所)https://www.galamedianews.com/nasional/251950/ikhtiar-usir-covid-19-wali-kota-dan-pejabat-di-solo-ambil-cara-spiritual-dengan-gunduli-kepala.html

(以下に続く)

  • ダヤックの慣習法に基づく伝統的なロックダウン
  • 注目されるリンバの人々のベセサンディゴン(Besesandingon)
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