●出張中に街の雰囲気が急変
2020年3月1~11日、所用でインドネシアへ出張しました。3月1日にジャカルタへ到着する前に、機内で黄色い健康調査票を記入し、到着後にそれを係員に手渡した後、額にビームを当てられて体温測定、「ノーマル」との声を聞いた後、到着時ビザ(VoA)取得、入国審査と進みました。
新型コロナウィルスをめぐる日本や世界の状況から察して、「汚染国」と認知されてもしかたない日本からの入国は、突然の拒否もあり得ると覚悟しての入国だったので、ちょっと拍子抜けの感もあり、すんなりと入国できました。
しかし、その翌日の3月2日から街の雰囲気が変わり始めました。ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)が「インドネシアで初めての新型コロナウィルス感染者2名が出た」と発表したためです。しかも、その2名は、マレーシア在住の日本人から感染した、とも述べました。日本人が新型コロナウィルスを持ち込んだ、と受け止められかねない内容でした。
新型コロナウィルスは、知らないうちに自分が感染源になってしまっているかもしれない性格のものです。万が一、自分がそうなってしまったときのために、毎日、自分の行動の足跡を細かくインドネシア語で記録することにしました。
移動には、いつも使っているトランスジャカルタなどの公共交通機関を避け、タクシー、GrabやGojekなど、乗車した車輛番号や運転手、乗車した時間が特定できるものを使いました。立ち寄った店やその経路もすべて記録しました。
用務のための面会アポもお願いしていたのですが、結局、インドネシア側との面会の多くはかないませんでした。はっきりとは言いませんが、「汚染国」から来た日本人との接触を避ける空気もあったのかもしれません。もしそうだとしても、それは当然のことでしょう。こちらからも面会アポを強要することはしませんでした。
実際に、日本人であることを理由に、差別的な言動や行為を受けたことは一度もありませんでしたが、この頃の雰囲気は、他所からの新型コロナウィルスの侵入を防ぐという意識が強いように感じました。
オフィス街ではマスク着用率が予想以上に高く、その多くは、他所から感染されないために着用するという意識のようで、自分が他人へ感染させないためにマスクをつけるという意識は高くないように見受けられました。
幸い、今回の出張中は、とくに用がなければホテルに籠っていたこともあり、休養十分ですこぶる体調も良く、発熱も下痢も何もない、快調そのものの滞在でした。そして3月11日に帰国後、約2週間が経ちますが、体調不良は全くなく、毎日元気に過ごしています。
しかし、この間に、新型コロナウィルスをめぐるインドネシアの状況は急激に変化しました。3月1日まで感染者数ゼロを誇っていたのが、3月22日時点で陽性反応者が514名、死者48名を数えるに至りました。
日本人を含む外国人に対しても3月20日から1ヵ月間、ビザなし渡航、到着時査証(VoA)、外交官・公務査証での入国が停止され、権威ある公的機関発行の健康証明書を付した在外公館でのビザ申請のみが可能となりました。
体温測定を行うジョコ・ウィドド大統領。(出所)https://www.freemalaysiatoday.com/category/highlight/2020/03/20/32-dead-of-covid-19-in-indonesia-600000-at-risk/
●3月1日まで本当に感染者はゼロだったのか
インドネシア人は1日に何度も沐浴をするし、イスラム教徒は礼拝の前に必ず手足を洗うし、何せ神のご加護があるから、新型コロナウィルスにはかからないのさ。高温多湿なところでは菌は死滅するんだよ。ついこの間まで、そんなふうに言っていたインドネシアの人々が今、新型コロナウィルスに怯えています。
雨季が明けようとしているこの時期のインドネシアでは、デング熱、腸チフスなど様々な病気が流行り、風邪やインフルエンザも日本のよりもずっと強力な場合があります。そう言った病気で亡くなる人々も少なくなく、おそらく致死率では新型コロナウィルスを上回るかもしれません。新型コロナウィルスが未知であることの恐怖が、人々を不安に駆り立てています。
インドネシアでは、新型コロナウィルスの重症化を招く糖尿病や高血圧の患者数も意外に多いのが現実です。もしかすると、3月1日以前に亡くなられた方のなかには、実は新型コロナウィルスが原因なのに別の死因で亡くなった方もいたかもしれません。ちょっと風邪が長引いているぐらいに思っていた人々もけっこういたのではないかと想像します。
インドネシア政府は、基本的に新型コロナウィルスは他所から持ち込まれたものというスタンスですが、シンガポールでの感染者のなかには、インドネシアから帰国後に発症したケースも報告されており、たしかな感染源は何も究明されていません。最初の2名の感染者のケースも、マレーシア在住日本人がマレーシアで陽性反応したので心配して、善意でインドネシア側に知らせてきたものですが、本当にその日本人が感染源かどうかは科学的に証明されていません。
このような状況で、筆者は、インドネシアで新型コロナウィルスの感染者数・重症化が予想以上に進むのではないかとの危惧を持っています。それは、インドネシア政府や病院の能力が劣っているという話ではなく、もっと根本的な対応の問題を感じるからです。以下で、それを提示したいと思います。
(以下に続く)
- 治安を意識した新型コロナウィルス対応と情報統制
- 感染者対応に関する中央=地方関係
- 速効検査をめぐる政府内の思惑
- 感染ピークは4月半ばか、現場からはSOS
- これからが移動・集合・帰省の季節、感染は拡散する
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