中ジャワ州の南西に位置するプルバリンガ(Purbalingga)県。西隣にはプルウォクルトを県都とするバニュマス県があり、北はプマラン県と接しています。また、東・南隣はバンジャルヌガラ県と接し、バンジャルヌガラ県の先には、よりどりインドネシアの連載でお馴染みのウォノソボ県があります。
中ジャワ州のなかでのプルバリンガ県(赤)の位置。(出所)https://id.wikipedia.org/wiki/Kabupaten_Purbalingga
プルバリンガ県は1950年に設立され、面積は777.64平方キロメートル、人口は2018年で96万9684人です。この地方の中心都市であるプルウォクルトからプルバリンガ県の県都プルバリンガまでは約21キロメートルの距離です。
プルバリンガ県は、日本でほとんど知られていませんが、実は3つの面白い特徴を持つ県です。第1に、韓国系企業が集中して立地している県です。これらの韓国系企業は、カツラ(ウィッグ)や付けまつ毛を製造しています。第2に、自動車やバイクのマフラー(knalpot)の生産で全国的に有名な県です。そして、第3に、近年、映画を中心とした文化活動を活発に行っている県です。
どうして、こうしたことがプルバリンガ県に起こったのでしょうか。今回は、その謎を以下で見ていくことにします。
●韓国系企業がカツラや付けまつ毛を製造
プルバリンガ県には、韓国系企業が20社以上も立地しています。そのほぼすべてが、カツラや付けまつ毛を作る労働集約型企業です。
プルバリンガ県の付けまつ毛製造風景。(出所)https://www.posjateng.id/warta/industri-bulu-mata-palsu-purbalingga-megap-megap-b1XcS9bhK
最初の韓国系カツラ製造企業が操業を始めたのは1985年頃で、当時は従業員50人足らずの家内工業でした。それが1990年代半ばから他の韓国系企業の進出が相次ぎ、現在では第2工場、第3工場を持つ韓国系企業も現れました。
なぜカツラや付けまつ毛がプルバリンガ県で製造されたのでしょうか。単に最低賃金が低いこと(2020年で194万800ルピア)だけが理由ではありません。
プルバリンガ県では、実は、ポジョンサリ郡カランバンジャル村で1950年代から「サングル」と呼ばれる伝統的なジャワ人の女性用の結い髪の生産地でした。元々、インドネシア各地をまわって、人間の髪の毛を収集し、それをサングルの材料としてきました。
結い髪をつくるには細かい作業が必要ですが、プルバリンガの女性は手先の器用さが際立っていました。韓国系企業はそれに目をつけたのです。もっとも、当初はなかなか韓国系企業の思った通りの製品にならなかったようです。
カツラや付けまつ毛の製造では、細かな部品を家族の副業などで下請けして製造します。下請先は300カ所程度あり、その一部は規模が拡大し、企業化しているものもあります。
これら下請を含め、カツラや付けまつ毛製造だけで約4万人の雇用を生み出しています。製造に従事するのはほとんどが女性なので、家事労働の使用人を見つけるのが難しいようです。他方、男性の雇用機会は限られています。
ジョコ・ウィドド大統領がプルバリンガ県のカツラ工場を訪問(2018年4月13日)。(出所)https://news.okezone.com/read/2018/04/23/512/1890323/jokowi-kunjungi-pabrik-rambut-dan-bulu-mata-palsu-di-purbalingga
韓国系企業が集中する別の理由は、県政府の投資認可ワンストップサービスにあります。県知事署名の立地許可以外の許認可は、県投資許可統合サービス事務所(KPMPT)ですべて終了できます。
韓国系企業は、すでに進出している韓国系企業間で用地に関する情報をシェアし、新たな企業の進出の前にすでに地権者から土地を購入してしまっているケース(自社のインドネシア人従業員の名前で購入)が多いようです。このため、新企業が進出する際に、用地確保の問題はクリアされています。
プルバリンガ県内に工業団地はありませんが、工場用ゾーンでの用地取得に県政府が便宜を図ってくれます。そして、労働組合活動は低調で、労働争議もありません。現地に根を下ろした韓国系企業は、今やプルバリンガ県にとって不可欠な存在となっているのです。
もっとも、近年、中国やベトナムなどとの競争が激しくなり、それがプルバリンガ県のカツラや付けまつ毛の製造にも影を落としています。とくに、機械化を進める中国に対して、プルバリンガ県は手作業に頼っており、価格競争で勝つのが難しくなっています。市場も飽和状態なため、一部には一時解雇などの措置が採られているようです。
(以下へ続く)
- マフラー製造への道
- プルバリンガ映画フェスティバル、13年の軌跡
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