よりどりインドネシア

2019年11月10日号 vol.57

28年ぶりのバダ谷へ樹皮紙・樹皮布を見に行く(松井和久)

2019年11月10日 14:52 by Matsui-Glocal

震災後1年を迎えるために訪問した中スラウェシ州パル市を後にして、2019年9月30日、バダ谷へ行ってきました。パルからバダ谷へは、パルからポソ経由でポソ湖畔の町・テンテナへ向かい、テンテナからバダ谷の中心地ギントゥ(Gintu)へ向かう、というルートです。

実は28年前、1991年8月、筆者は妻と友人の3人でバダ谷へ行きました。当時、テンテナからギントゥへの道はスラウェシ島有数の悪路として有名で、わずか100キロ程度の距離なのに、ジープで10時間以上かかりました。

テンテナからギントゥまでは当時、馬に荷を負わせて徒歩で行くのが普通で、2泊3日の行程でした。山をいくつか越えていくのですが、その山間に川が流れていて、その川にかかる橋の下で一夜を明かすのが普通でした。

ジープで行っても、三歩進んで二歩下がるような状態で、途中で倒木やぬかるみに次々と遭遇しました。ジープには我々3人とガイド、運転手以外に、2人の若者が乗り込み、立ち往生しては倒木をどかし、ぬかるみにハマれば森の中から石や木を持ってきて脱出を図り、といった具合でした。

ジープには、テンテナから重しを兼ねたセメントを積んでいきます。バダ谷へ持っていくと、セメントはテンテナの2倍以上の値段で売れるのです。一方、バダ谷からテンテナへは、コーヒーを運びました。

無事到着できれば、ラッキーでした。森の中でジープが故障して動かなくなり、徒歩で進まなければならなくなったという話もたくさん聞きました。実際、1991年8月に行ったときには、途中に乗り捨てられたジープや工事車両を何台か見かけました。なぜそこまでしてバダ谷へ行くのか、そんな疑問が湧いてきて、道の途中で前へ進むか、引き返すか、迷いが交錯するのでした。

そんな過去のイメージをまだ引きずりながら、今回、テンテナからバダ谷へ向かったのですが、結果はあっけないものでした。乗用車(アバンザ)に乗り、快適な舗装道路を通って、たった2時間でバダ谷へ着いてしまったのです。

テンテナからバダ谷のギントゥへ向かう舗装道路。電柱と電線もみえる。

テンテナからギントゥへ向かう途中で、国営バス会社(DAMRI)のバスとすれ違いました。今では、ギントゥからポソまで1日2往復の定時運行バスが走っているのにも驚きました。

28年前、悪戦苦闘しながら10時間かけて着いたバダ谷は、まるで桃源郷のような別世界でした。裾のフワッとした黒い服を着たお婆さんが収穫した稲を足踏み脱穀していました。まだ電気は来ておらず、発電機で電気を起こせる「サヌール」という名の商店が1軒だけあり、そこに泊らせてもらいました。

今回、ギントゥの中心部にある「サヌール」という商店の場所も訪れてみました。そこには、朽ちかけた建物が残っていました。2000年代初め、ポソ県でイスラム教徒とキリスト教徒との間で激しい対立抗争が続いた際、イスラム教徒の商店主は、キリスト教徒が多数派のバダ谷で攻撃対象となることを恐れて店を閉め、いなくなってしまったのでした。実際には、バダ谷ではポソでの宗教間対立の影響を受けた暴動は起こらなかったのです。

「サヌール」と呼ばれた商店の跡。

あのときのバダ谷訪問の目的は、バダ谷に点在する石像を見て歩くことでした。大小さまざまな形状の石像が谷の中のあちこちにあり、由来や年代などが不明な状態でした。今もその状況はほとんど変わっていませんでした。

もちろん、今回も28年前に訪れた、巨大な石像セペに再会してきました。セペの周辺はきれいに整備され、公園のようになっていました。

巨大な石像セペ。その由来や建立の背景などは全く解明されていない。

でも、今回のバダ谷訪問の目的は、石像との再会ではなく、樹皮紙・樹皮布を見に行くことでした。バダ谷やその周辺に残る樹皮紙・樹皮布は、世界中で唯一、実用的なものとして3,000年以上前から製造し続けられているものであり、大変に貴重なものなのです。

どんなふうに貴重なのか、樹皮紙・樹皮布をめぐる不思議についても、筆者の見分の範囲内でいろいろ見ていきたいと思います。

なお、今回の訪問は、スマトラ沖大地震・津波の際に土地権利書等の復元に寄与され、長年にわたって樹皮紙・樹皮布を研究されている専門家の坂本勇氏のお誘いを受け、中スラウェシ地震・津波・液状化から1年を経た現状の確認とバダ谷での樹皮紙・樹皮布の現況把握に同行したものです。

(以下の内容)

  • 樹皮紙・樹皮布とはなにか
  • 樹皮紙・樹皮布をどのように作るのか
  • 樹皮紙・樹皮布は何に使うのか
  • 樹皮紙・樹皮布の神聖性と世界的な広がり
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