●差別されるパプア
2019年8月半ば、マランやスラバヤでのパプア人学生に対する治安当局などの侮蔑的言動が引き金となって、パプア州・西パプア州の各地などで暴動を伴う広範な抗議行動が起こりました。そのなかで、改めてパプア人に対する非パプア人の根強い差別意識がクローズアップされました。
サル呼ばわりされたことに抗議するパプア人学生たち (出所)https://nasional.tempo.co/read/1239123/demo-depan-istana-mahasiswa-papua-pakai-topeng-wajah-monyet
パプア人に対する差別の表出は、治安当局などによる侮蔑的言動だけでなく、たとえば、学生が下宿先を探しても入居を断られるとか、強い体臭を理由に同席を妨げられるとか、酒ばかり煽って働かないという言説など、日常的な些細な場面でもよく見かけるものです。
そして、その差別されているという意識は、長年にわたってパプア人のなかに沁み込み、差別されることが当たりまえともいえるような感情を植えつけています。
18年前、メラウケ県を訪問する機会があり、メラウケ県知事と懇談しました。県知事は長年、ジャカルタの内務省に勤務していた中堅官僚で、地元のメラウケに戻って県知事になりました。いつも地方をまわるときと同じように、地域振興の議論をしていたのですが、ある話の途中で、彼はこう言いました。「あなたはパプアが他のインドネシアよりも低いと思わないのですか」と。
突然の質問に驚きました。とくにパプアということを意識せずに、地域振興の議論をしていたのですが、県知事自身が、「自分たちはジャワなどよりもずっと劣っていて程度が低い」という劣等意識を持っていたことを告白したのでした。ジャカルタの内務省での経験が彼をしてそうせしめたのか、パプア人のエリートたちの心のなかを覗き見たかのような気持ちになりました。
もっとも、これは、程度の差こそあれ、パプア以外の地方でもみられることです。筆者が長年関わっているスラウェシでも、日ごろ「ジャワなんかに負けない」「自分たちのほうが優れている」と胸を張りながら、内心では、「自分たちはジャワにはかなわない」と思っているところがあるのです。そんな本音を垣間見る瞬間を幾度も体験してきました。
インドネシアにおける種族間の差別の構造は、相当に複雑です。他者からは上と見られているジャワ人のなかでも、出自や地域などによる細かな差別構造は存在します。自ら非差別意識を持った者が自らより劣った者を見つけ出して差別する、といった構造に、さらに宗教、人種、学歴、貧富状況などが加わって、表面からは見えないところで差別の構造は複雑に絡み合っているのが現状だと思います。
こうした隠された差別意識はまた、人々を分断させ、連帯を遮るという意味で、支配者にとっては都合がいいものです。
●差別するパプア
その一方で、実はパプアも非パプアを差別していることに気がついているでしょうか。それは「土着パプア人」(Orang Papua Asli)とは誰か、という問いと関わってくる問題になります。
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