2018年12月2日にパプア州ンドゥガ県で道路工事作業員が襲撃されました。「よりどりインドネシア」の前号(第36号)では、この事件をめぐる政府・軍側と現地・キリスト教会側との間で、見方・受止め方がだいぶ異なることを指摘しました。
今回は、この事件の「その後」と周辺事情を見ていきたいと思います。
隣県近くまで避難してきたンドゥガ県イディ郡の住民たち。(出所)https://www.benarnews.org/indonesian/berita/warga-nduga-kelaparan-12312018151159.html
●かなりまずい状況へ向かっている?
インドネシアの大手メディアでは、この事件にはあまり触れなくなっていますが、実はかなりまずい状況へ向かってしまいそうな気がしてきました。
あの事件を機に、ンドゥガ県には軍・警察が増派され、治安監視がより厳しくなっています。事件を引き起こした武装犯罪グループ(Kelompok Kriminal Bersenjata:KKB)の摘発・戦闘が続いており、住民の多くは、今も森の中などへ避難している状況が続いています。
教会関係者は、避難している住民たちには、過去の軍による住民弾圧のトラウマが現れていると指摘しており、ンドゥガ県からの軍・警察の撤退を求めています。そして、パプア州の州知事、州議会議長ら州政府幹部も、2018年12月20日に軍・警察の撤退を呼び掛ける声明を発しました。
これに対して、軍・警察は、州知事らの声明を厳しく非難し、国家への忠誠を強く求めました。
ンドゥガ県はパプア中央高地に位置し、全国で唯一、軍や警察の存在を拒む住民がいる地域といわれています。北側の海岸沿いの州都ジャヤプラからも遠く、その距離の遠さが、州政府のンドゥガ県に対する緩慢な対応によく表れています。
実際、病気が流行したり、災害が起こったりしたとき、真っ先に駆け付けるのは軍・警察であり、州政府からの支援はありませんでした。軍・警察はそれをもって、決して住民から恐れられる存在ではないことをアピールしています。
それでも、ンドゥガ県の住民は、過去からの様々な経験によって軍・警察に対する怖れを解消できずにトラウマを持っているのです。では、どんな過去の経験があったのか、パプアの教会関係者が自県を受けて出した声明の中から拾ってみましょう。
(以下の内容へ続く)
- 1996年の軍事行動のトラウマから
- 化学爆弾を投下したのか?
- ンドゥガ県知事の行方と息子の疑惑
- フリーポート社のインドネシア化完了
- 資源をめぐる利権抜きでパプアを語ることはできないのか
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