よりどりインドネシア

2018年12月08日号 vol.35

ハジ・ウマール・ファイサル小林哲夫のこと(脇田清之)

2020年08月20日 17:01 by Matsui-Glocal

太平洋戦争の初期、南スラウェシほか東部インドネシア各地で活躍した一人の日本人がいました。ハジ・ウマール・ファイサル(Haji Umar Feisal)小林哲夫です。彼の死後70年以上を経過しましたが、彼の名は、いまも南スラウェシの人達の心に刻まれています。

2015年3月頃、マカッサルの郷土史研究家カシム(Nur Kasim)氏から一通のメールが届きました。ハジ小林の墓を探している、協力してほしい、とのことでした。これを契機として、ハジ・ウマール・ファイサル小林哲夫についての日イ共同調査が始まりました。

インドネシア宗教省は、20世紀前半(1900~1950年)の各地のウラマ(宗教指導者)についての調査を行っており、その一環として 2018年9月20日にマカッサルで「ウラマのネットワーク」(JARINGAN ULAMA)というテーマでセミナーが開かれ、カシム氏も参加して、これまでの調査結果を報告しました。

 

マカッサルにおけるセミナー「ウラマのネットワーク」の様子。右の写真はハジ小林を紹介している様子(写真提供:カシム氏)

今回は、インドネシア人が知っていて日本人が知らない日本人、小林哲夫について、カシム氏の協力を得て、取りまとめてみました。

●ハジ小林とは

小林哲夫(1911~1943, 兵庫県飾磨郡夢前町出身)は、エジプトのアズハル大学(世界最古の学園)宗教学部を卒業し、メッカ、メジナ、ケルベライを巡礼し、ハジ(Haji)の称号を得ました。太平洋戦争勃発後、小林は海軍南方方面艦隊、当時マカッサルにあった海軍民政府に所属し、軍政と海軍占領地の回教徒の間に立って相互理解に尽力しました。

日本海軍の政策は現地の回教徒にとっては受け入れ難いものでした。そこで小林は当時マカッサルにあったイスラム組織を改革し、新たなイスラム教育のための組織、マドラサ・ジャミア・イスラミア (Madrasa Jahmiyah Islamiyah)、日本名・回教学院を設立するなど、現地の若者の教育に尽力しました。

小林はインドネシア語、アラビア語が堪能で、インドネシア回教徒より尊敬され親しまれ、海軍軍政下の占領地行政に大いなる影響・貢献があったということです。1943年8月21日、アンボンからの帰途、東南スラウェシのポマラ南方の海域にて、米空軍機により撃墜され、戦死しました。33歳でした。

小林の墓地は、2004年頃マカッサル総領事を務められた渡邉奉勝氏が保管していた当時の新聞切り抜き記事によると、かつてはゴワ県の森の中にあり、その後、1963年に日本の援助で製紙工場を建設するため、マカッサル市内にあるイスラム霊園に移されていることが分かりました。因みにこの製紙工場の跡地は今、国立ハサヌディン大学の第2キャンパス(工学部)に生まれ変わっています。

●ハジ小林の墓地を訪れて

2017年9月23日、カシム氏の案内で、マカッサルのウリップ・スモハルジョ通り、英雄墓地の近くのイスラム霊園を訪問しました。ハジ小林の墓(墓標識: 209 H)は、隣の最近できたと思われる大きな墓の工事による残土に覆われていました。死後も弱肉強食の社会なのでしょうか。スコップで土砂を取り除いてお参りをしました。

わずかな期間ではあったものの、地域イスラムのウラマとして活躍した小林の墓にしては寂しい気もします。しかし、改葬となればそれなりのお金も必要で、墓が見つかっただけで良しとするか、残念ながら今も状況は変わっていません。なお、以下の写真は、3点とも、粟竹章二氏撮影のものです。

墓は隣接する大きな墓の工事の残土で覆われていた。

写真中央がカシム氏

ハジ小林の墓標

 (以下に続く)

  • イスラム教探究の機縁
  • 「インドネシアの回教」出版の経緯
  • 「インドネシアの回教」の目次
  • 蘭印政府の回教政策
  • インドネシア独立を支援する仲間たちと
  • 宗教対策要員の養成
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