●南国といえば、これ!
インドネシアで広く食べられているキャッサバ。栽培は簡単で、あまり手をかけずともぐんぐん育ちます。味もクセがなくシンプルなのに、芋特有のホクホク感はしっかり。しかも、芋本体だけではなく、葉も美味しくいただける。かなり有能な作物ですよね。私は大好きです!
小学生の頃に社会科の教科書で見て、どんな味の芋なんだろう・・・と想像を巡らせていたキャッサバが、まさかこんなに身近な存在になるとは思っていませんでした。が、キャッサバ食べ放題はインドネシア生活の魅力の一つだと思っています。
今回は、この辺りでの主なキャッサバ利用法をご紹介します。
●わらべ歌にもなったあのお菓子
まず、ジャワでキャッサバといえばグトゥック(Gethuk)です。
日本語では「芋ようかん」と訳されたりしますが、キャッサバを茹でて潰し、砂糖やココナッツを練り込んだお菓子です。キャッサバの旨みがギュっと凝縮されていて、美味しくないわけがない!
こちらは、グトゥック・リンドゥリ(Gethuk Lindri)と呼ばれる種類のもの。バイクなんかで売り歩いていて、呼び止めて買います。1つRp.500なので、Rp.5000もあれば1皿分買えますよ。
すでに砂糖が練りこまれているのに、さらに砂糖とすりおろしたココナッツをかけてくれます。OK、OK、カロリーは美味ですよね。
実は、私がグトゥックを知ったのは、インドネシアに来るずっと前でした。大学のガムランサークルで習った曲が、Gethukというタイトルだったのです。有名なジャワの遊び歌なんですよ。
ジャワにはグトゥックという芋ようかんがある、と聞いて、食べてみたい!と憧れを抱いたものの、その後縁あって私が住むことになったのは西ジャワ州、スンダ地方でした。
スンダにはスンダの美味しい食べ物がたくさんありましたが、グトゥックは見つからなかったのです。ジャワに来て初めてグトゥッを目にした時は、「おお、これが!」と感激してしまいました。
●やめられない、とまらない!
甘いものの後は塩辛いものです。そこでこちら、ウォノソボでは定番となる、キャッサバせんべいことチョンブロ(Combro)。
キャッサバをすりおろし、調味料や香辛料を入れて薄い円形に成型し、蒸して揚げたものです。普通のクルプックよりは堅く歯ごたえがあり、少しピリ辛。一枚、もう一枚…と延々とボリボリかじっていられます。
チョンブロというと、西ジャワにも同じ名前のものがありますが、別物といっていいでしょう。やはりキャッサバを使った揚げ物ですが、あちらはコロッケのようなものに近く、片やこちらのは完全におせんべい。
見た目も味も違うのですが、どちらも『キャッサバをすりおろし、調味料と混ぜて揚げる』という基礎部分が共通しているので、同じ名前なのでしょうね。もしかしたら、他の地域には、さらにバージョン違いのチョンブロがあるのかもしれません。
そしてもう一つ、やはりパリポリ系ですが、より薄いクルプックの一種でオパック(Opak)もしくはオパック・シンコン(Opak Singkong)です。
こちらも、ウォノソボでは定番のもの。サクサクと軽快な食感にさっぱりした味わいで、これまたいくらでも食べられるキケンな食品です。キャッサバを茹でるか蒸すかしてから潰し、調味料、香辛料で味を整えます。
特徴的なのは、ニラが入っている点です。涼しく、葉物野菜が豊富なためでしょうか、ウォノソボの名物とされる料理にはニラが使われていることが多いのです。生地が出来たら薄く伸ばして天日干しをします。
他のクルプックと同じく、こうした乾燥状態で売られているんですよ。
一袋、たっぷり入ってRp.10.000。これを各家庭で揚げるわけです。クルプックやオパックを揚げるのは、油の温度が低すぎると上手く広がらないし、揚げ時間が長すぎると堅く焦げくさくなるし、しっかり油をきらないとべちょべちょするし・・・で、手際のよさが試されますよね。
●米がないならキャッサバを食べればいい
さて、これらは主におやつ枠でしたが、キャッサバは主食にもなるんです。とはいっても、ジャワは米食文化圏であり、通常は主食といえば米飯です。
しかし、特にこの辺りの人々は、昔からキャッサバをお米代わりにして食べてきました。それがキャッサバご飯、ティウル(thiwul)です。
ほんのり茶色で粒も丸っこいですよね。白米よりは餅米の食感に近く、でもややボソボソとした舌触り。白米のようなうまみはあまりないのですが、素朴な風味があってホッとする味です。
白米と混ぜたり、すりおろしたココナッツと合わせて食べたりします。味が濃い目の炒め煮野菜なんかとも相性がいいんですよ。
こちらは炊く前のティウル。ザラザラの粒々たちです。キャッサバを干して潰して作るんだそうですよ。3㎏ほどで15,000ルピア、安い。
この辺りは、昔はあまり経済的に豊かではなく、一日3回の食事に事欠くこともあったそうです。ティウルはお米より安価だけれど腹持ちもいいので、白米の代替食として活躍してきました。決して客人に出すような料理ではないけれど、昔ながらの懐かしい味、といったイメージのようです。
昔は何処ででも手に入ったそうですが、多くの人が白米を日常的に食べるようになった今では、ティウル生産者は減ってしまいました。現在、ウォノソボ市内では、南部のカリウィロ郡でまだ盛んに作られています。
またティウルをご飯にするだけではなく、ルンギナン(Rengginang)やクレチェック(krecek)と呼ばれるせんべいに加工したりもします。
普通はルンギナンといえば白米で作られますが、このティウル・バージョンも香ばしいですよ!
さらには、生のキャッサバをすりおろしてお米と一緒に炊くバージョンのキャッサバご飯もあります。こちらはレイェ(Leye)と呼ばれます。
よく見ないと分からないかもしれませんが、真っ白な白米に所々黄色っぽいものが混じってますよね。こちらもやはりモチモチとした炊き上がりになり、おこわのようです。新鮮なキャッサバが身近にある環境ならではの料理ですね。
これもお米を節約してお腹いっぱい食べられるメニューなので、今の大人たちが子供の頃はよく食卓にのぼったそうです。
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そのまま揚げるだけでも美味しいキャッサバですが、こうして様々に形を変えて食生活を支えてくれる、まさに庶民の味方だったのですね。
キャッサバご飯などは「田舎くさい」というイメージがあるようですが、カロリーは低いので、『ヘルシー食』『ダイエット食』という切り口で売り出せば生き残るかもしれません。豊かなキャッサバ食文化を末長く残していって欲しいなと思います。
(神道有子)
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