ちょっとした縁があって、筆者は今、日本からインドネシアへ戻った元技能実習生・研修生のOB会であるインドネシア研修生実業家協会(IKAPEKSI)のアドバイザーを務めています。
このIKAPEKSI中ジャワ支部の面々と一緒に訪れたのが、マゲランにあるクパッ・タフ屋「プロポール」(Tahu Kupat “Pelopor”)です。なぜかここは、クパッ・タフではなく、タフ・クパッと逆の読み方なのです。
何でも、クパッ・タフはマゲランの名物らしく、とにかく一度食べて欲しいと強力にお勧めされたので、食べてみました。
タフはもちろん豆腐、クパッはクトゥパッ(米を椰子の葉に包んで蒸したもの)です。クトゥパッは、主に汁物に入れて食べます。チョト・マカッサルでも、ソト・バンジャールでも、お供はこのクトゥパッです。
キャベツなどの野菜がたくさん載っていて、それにピーナッツ味のタレをかけて食べます。このタレが絶妙な甘辛で、豆腐にたっぷりかけて染み込ませ、クトゥパッと一緒にいただくと、なんとも言えない美味しさになります。
マゲランのタフ・クパッ「プロポール」
クパッ・タフといえば、筆者には忘れられない思い出があります。
初めてインドネシアへ行った1985年8月。ジャカルタからバンドゥン行きのバスに乗り、プンチャックを越えて、バンドゥンの手前のチマヒでバスを降り、当時、日本でインドネシア語を教えてくれていた先生の家に1週間ぐらい泊まらせてもらいました。
毎朝、近所へ売りに来るクパッ・タフが朝ごはん。毎朝、毎朝、クパッ・タフでした。
そのクパッ・タフは、ココナッツミルクの汁に豆腐がいくつか入っただけのシンプルなもの。初めてのココナッツミルクでしたが、味があまりなく、最初食べたときは、美味しいとは到底思えないものでした。
でも、翌朝も、その次の朝も、毎日クパッ・タフが続きます。
3日目の朝になると、ずいぶんと慣れて、「まあこんなもんか」と食べられるようになります。
そして4日目、5日目になると、不思議なことに、朝はクパッ・タフでなくちゃ、という気分になり、朝食にクパッ・タフが全く苦でなくなっているのでした。
あのときのクパッ・タフに比べれば、もう雲泥の差ほど、マゲランのクパッ・タフは洗練された美味しさでした。
ああ、でもきっと、もう、チマヒで食べたシンプルなクパッ・タフとは出会えないことでしょう。
マゲランのクパッ・タフを食べながら、33年前のかすかな舌の記憶がちょっと思い出されたひとときでした。
(松井和久)
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