よりどりインドネシア

2018年02月07日号 vol.15【無料全文公開】

バンジャルマシンの水上マーケットは今(松井和久)

2020年04月18日 13:46 by Matsui-Glocal

グリーンランド島、ニューギニア島に次いで、世界で3番目に大きい島、ボルネオ島。そのインドネシア領の部分はカリマンタンと呼ばれます。

カリマンタンには、蛇行して流れる大きな川がいくつもあり、その光景は、人口稠密で狭いジャワ島などに比べると、はるかに広い、大陸的な趣きすら感じる大地です。

カリマンタンで暮らす人々にとって、川は生活の一部であり、交通といえば船で川を移動するのが一般的でした。今でこそ、主要都市を道路で結ぶ計画が進められていますが、川は人々にとって大事な「道」であったのです。

カリマンタンの南、南カリマンタン州の州都バンジャルマシンに、水上マーケットがあるのをご存知でしょうか。

水上マーケットといえば、タイのバンコクが有名で、たくさんの観光客が訪れる名所ですが、バンジャルマシンの水上マーケットは、それに比べるとちょっと寂しい感じもします。

それでも、バンジャルマシンの水上マーケットは、500年以上前から存在しているといわれる伝統的なもので、川が生活の一部となっていることを如実に表すものでもあります。

筆者は、2011年5月にこの水上マーケットを訪れました。それからもう7年も経ってしまいましたが、そのときの写真とともに、水上マーケットの今について、見ていくことにしましょう。

●千の川の都、バンジャルマシン

バンジャルマシンは「千の川の都」(kota seribu sungai)という異名も持つ、まさに川とともに栄えてきた街です。人口は82万人(2015年)を数え、名実ともに、南カリマンタン州の州都です。

とはいえ、バンジャルマシンは川に囲まれ、内陸方面への発展の余地が少なく、手狭なため、南カリマンタン州では将来、より土地面積の大きい、南東のバンジャルバル市へ州都を移す計画があります。

水上マーケット以外のバンジャルマシンの名物といえば、サシランガンと呼ばれる絞りの布があります(下写真)。

このほか、米を椰子の葉で包んで蒸したクトゥパッで食べるスープ料理のソト・バンジャルが有名です。これらについてはまた別途、ご紹介します。

●二つの水上マーケット

バンジャルマシンの街中からアクセスできる水上マーケットは、2つあります。近いのがムアラ・クイン水上マーケット、遠いのがロッ・バインタン水上マーケットです。到着までは、前者は船で約30分、後者は約1時間以上かかります。

いずれも、夜明け前の朝5時頃から始まり、午前10時頃には終了します。

上の写真は、ムアラ・クイン水上マーケットの様子です。筆者が行ったときは、朝5時過ぎ、夜明け前から船で出かけました。

次に、ロッ・バインタン水上マーケットですが、こちらのほうが、ムアラ・クイン水上マーケットよりも船の数が多く、にぎやかな様子でした。

プラフ・クロトッ(perahu kelotok)と呼ばれる小舟に乗っている商人は皆、編み笠を被った女性たちでした。

ロッ・バインタン水上マーケットは、いくつかの川が交わるところで、自然発生的にできたものと言われています。14世紀ぐらいから存在していたという見方もあり、商人どうしがバーター(物々交換)で交易を行ってきたようです。

1595年にバンジャル王国が成立すると、王国の庇護の下、ロッ・バインタン水上マーケットは一層発展し、ジャワ人、インド(グジャラート)人、中国人など、域外の商人もここを訪れ、交易を行っていたという話です。

●観光化せざるを得ない水上マーケット

近年、バンジャルマシン周辺の道路事情が改善するにつれて、陸路による商業活動が活発化したことで、水上マーケットの地位は急速に低下しています。日常的に、水上マーケットで日用品を購入する市民はあまり多くはなく、小舟に乗る商人たちの収入は限られたものとなっています。

収入が少ないため、水上マーケットでの商人を辞め、陸上で商売をしたり、一攫千金を狙って、マレーシアなど海外へ出稼ぎに行ったりする者が増えて、商人の数もどんどん減っていきました。

そうなると、残った彼女らが期待するのは観光客です。実際、客の多くは観光客となっているのが実態で、もはや生活の一部としての水上マーケットの役割はなくなっているといってもよい状態になっています。

おそらく、かつて、川を生活の一部としていたカリマンタンの各地では、こうした水上マーケットが各地に存在していたことでしょう。しかし今では、バンジャルマシンのそれが稀有な存在となっているのです。

そこで、南カリマンタン州政府は、州観光開発中核計画に関する州令2013年第11号によって、水上マーケットを優遇観光地として指定したほか、教育文化省も、2015年に水上マーケットを無形文化遺産に指定しました。

そして、バンジャルマシン市政府は、市の中心部で新たに観光向けの水上マーケットを造り、毎週土曜の午後3~12時、毎週日曜の午前6~12時で営業を始めました。ここで活動する商人は65名のロッ・バインタン水上マーケットの商人で、既存の2つの水上マーケットと競合しないよう配慮されています。

しかも、そこでの取引は船上で行われるのではなく、観光客がアクセスしやすいように、川に張り出した船着き場で行うようにしています。

こうした努力の結果、バンジャルマシンを訪れる観光客数は、2015年は10万人だったのが、2016年に34万人、2017年には59万人と順調に増加しています。これらの観光客のほとんどが、水上マーケットを訪れているものと見られ、水上マーケットは観光対象として生き残る道を模索しています。

●あのRCTI Okeは今

バンジャルマシンの水上マーケットといえば、昔、インドネシアの民放テレビRCTIの「RCTI、Oke」と船上で女性がポーズするテレビ広告を、まだ覚えている方はいるでしょうか。1994~2002年にテレビで盛んに流されました。

(広告のビデオ動画はこちらから→https://www.youtube.com/watch?v=Ica75AY0sSA)

報道によると、この広告に出演したイダさんは有名人となり、「あの人は今」という形で、多くのメディアの取材を受けました。また、アグネス・モニカをはじめ、有名人とも知り合いになり、子どもの大学への学費を工面してもらうなど、色々な援助をうけたようです。

水上マーケットの古き良き時代のエピソードでした。

(松井和久)

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