よりどりインドネシア

2018年01月07日号 vol.13【無料全文公開】

燃料全国統一価格の試行(松井和久)

2020年04月18日 13:37 by Matsui-Glocal

ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)現政権の公約の一つは、燃料全国統一価格の試行です。辺境地でのガソリンや軽油の価格は、輸送コストがかさむため、ジャカルタやジャワ島に比べると、どうしても割高になってしまいます。

その割高の度合いがとんでもないのです。たとえば、インドネシア東端のパプア州の高地では、飛行機までも使用して運搬するため、ジャワ島で1リッター当り5,000ルピアぐらいの軽油が、場所によってはリッター当り10万ルピアになる、といったことが起こっていました。

パプア州での給油風景https://kabarpapua.co/sulitnya-mewujudkan-bbm-satu-harga-di-pedalaman-papua/

これだけの価格差があると、生活するのにも大変であるばかりでなく、産業を興すことも相当に困難になります。こうした中央と地方の度を越したコスト格差が地方開発の障害になっているとの認識があり、現政権は、一見、無謀にも見える、燃料全国統一価格を試行したのです。

経済原理から考えれば、燃料全国統一価格のためには、政府が相当の補助金を出さなければならないであろうことは容易に想像できます。他方、緊縮傾向を強め、無駄遣い監視を強める政府には、補助金のための潤沢な予算はありません。では、これは、どのようにして実現させようとしているのでしょうか。そして、燃料全国統一価格は今後も続けていけるのでしょうか。

以下では、ジョコウィ政権の燃料全国統一価格の試行を政府の動きとそれに対する現地での反応の様子を見ていくことにします。

●燃料全国統一価格という政策

ジョコウィ政権の重要な政策課題の一つは、地域間格差の是正です。その要因の一つは、2017年で全コストの23.5%を占める物流コストにあります。物流コストを下げるために、『よりどりインドネシア』第4号で取り上げた「海の高速」と「我らの家」という政策が採られています(https://yoridori-indonesia.publishers.fm/article/16165/)。

そのなかで、辺境地における燃料価格の異様な高さが問題視されました。その是正に取り組むため、政府は、燃料の調達、配送、販売価格に関する大統領令2014年第191号を発布し、それを受け、全国レベルでの特定燃料種及び特殊燃料種の統一価格実施迅速化に関するエネルギー鉱産資源大臣令2016年第39号が2016年11月10日に発令され、2017年1月から実施に移されました。

ここでの特定燃料種は軽油(ケロシンを含む)、特殊燃料種はプレミアム・ガソリン(リサーチ・オクタン価 [RON] 88以上のもの)を指します。これらの配給は国営石油会社「プルタミナ」が全国レベルで行い、プルタミナから指定された配給業者(協同組合、民間企業)を通じて消費者へ販売されます。

しかし、燃料の配給地点は、とくに辺境地ではまだまだ足りません。新たな配給地点は、エネルギー鉱産資源省石油ガス総局が決定し、石油ガス上流部門監督庁(BPH Migas)がそれら地点への燃料の調達・配給をプルタミナに命じる、という形を採っています。

新たな配給地点では、速やかに新たな配給業者を指定することがプルタミナに義務付けられ、その配給業者の配給コストもプルタミナが負担することとされています。

●新たな配給地点は2019年までに150ヵ所

ジョコウィ大統領は2016年10月18日、辺境地の一つであるパプア州ヤフキモ県でこの燃料全国統一価格の試行開始を宣言し、すぐに新たな配給地点の指定が始まりました。

2016年中には、パプア州の8県(プンチャック県、ンドゥガ県、ヤリモ県、大マンベラモ県、中マンベラモ県、インタンジャヤ県、アルファック山間県、トリコラ県)、及び北カリマンタン州ヌヌカン県の計9ヵ所で新たにプルタミナの配給所が設置されました。

2017年は54ヵ所の設置が目標とされていましたが、2017年12月24日時点で、40ヵ所での設置が終了しました(次の図はKompas, 26 December 2017を転載)。

さらに、2018年末時点で104ヵ所、2019年末時点で150ヵ所の新配給地点を設置するという目標を掲げています。

上の地図を見ても分かるように、この措置はまず、パプア州を手始めに実施され、その後、その他の辺境地へ拡大させるという手法を採っています。2019年の大統領選挙を踏まえて、辺境地での支持を確実にするという意味も含まれていそうな気がします。

●燃料全国統一価格の影響

それでは、燃料全国統一価格の試行は実際にどのような影響を与えているのでしょうか。

まず、実際に試行されたパプア州ですが、価格が大幅に低下しました。すなわち、試行前は、1リッター当り12,000~100,000ルピアだったプレミアム・ガソリンの価格は、全国統一価格の同6,450ルピアとなりました(軽油は同5,150ルピア)。

これで万々歳かと思いきや、実際は、そうでもなかったようです。すなわち、一般消費者がガソリンスタンドでガソリンを買おうにも、どこもかしこも、売り切れ状態が続出したのです。

何が起こったのかといえば、横流しです。横流しされたガソリンや軽油は、より高い価格で一般消費者へ売られました。闇取引が横行したのです。ただ、それでも、その価格はリッター当り1~2万ルピア程度であり、以前よりは若干低くなったとは言えます。

●プルタミナの苦悩

次に、価格を抑えるためのコストを負担するプルタミナの問題です。プルタミナの燃料配給負担は急増し、2017年までのパプア州と北カリマンタン州だけで8億ルピアとなっています。104地点となる2018年には1.3兆ルピア、150地点となる2019年には3兆ルピアとなることが予想されます。

エネルギー鉱産資源大臣令2016年第39号では、このプルタミナの費用負担を政府がどう補償するかという議論はなく、現実には、すべての負担をプルタミナが負う形になっています。政府自体は、前述のように、低位安定の経済成長のなかで、補助金の削減や省庁の歳出カットなど、緊縮気味の財政運営を行っており、容易にプルタミナの負担を補償できる状況にはありません。

他方、2017年1~9月で、プルタミナの収益は19兆ルピアの赤字が見込まれています。ただし、それは、必ずしも、燃料全国統一価格の試行に伴うものではないのかもしれません。

たとえば、プルタミナは、利益率を上げるために、プレミアム・ガソリンからオクタン価のより高いハイオク・ガソリンへの移行を図っており、ジャカルタなどの都市部では、プレミアム・ガソリン販売の比重が下がっています。

実際、全国レベルでも、プルタミナはプレミアム・ガソリンの供給量を減らしており、それを燃料全国統一価格の試行への反抗と捉える識者もいます。

プルタミナにとっては、プレミアム・ガソリンからハイオクへ移行したい一方で、国営企業として、辺境地などへのプレミアム・ガソリンの供給を求められるというジレンマに陥り、油田・ガス田開発も低迷するなかで、厳しい経営を余儀なくされているといえます。

経営状況の厳しいプルタミナにすべてのコスト負担を押し付ける燃料全国統一価格の試行は、2019年大統領選挙への対策としては有効であっても、果たして続いていけるものなのでしょうか。プルタミナの負担の一部を地方政府が肩代わりするなど、何らかの対策をしていく必要があると考えます。

(松井和久)

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