9月末、東ジャワ州マランで地元の実業高校2校を訪問する機会がありました。公立マラン第2実業高校と私立ムハマディヤ・シンゴサリ第3実業高校の2校です。
実業高校というと、インドネシアでも日本と同じように、普通高校へ行けなかった生徒が仕方なく行くようなイメージがありました。インドネシアは、昔から文系指向が強く、大学教育も文系に大きく偏向しています。インドネシア独自の科学技術発展がなかなか見られないのは、とにかく手っ取り早く稼げる、経済的に有利な職業に就きやすい学科を好む傾向があるからのように思えます。
実際、学歴別の失業率を見ても、最も多いのが実業高校卒であり、過去、普通高校卒を上回ってきました。企業側の需要と実業高校教育のミスマッチが頻繁に指摘されるものの、予算が少ないため、実業高校に最新の設備などをそろえられないという問題がずっとありました。
実業高校については、そんなイメージを持っていたのですが、今回、訪問して、本当にびっくりしました。ジョコウィ政権が実業教育に力を入れているのは承知していましたが、まさかこんなに実業高校が新しいことをやっているとは、想像しませんでした。日本の実業高校と比べても、もしかしたら、そのずっと先を行っているかもしれません。
どんな新しいことをやっているのか。さっそく、見ていきましょう。
●徹底的な実学主義
公立マラン第2実業高校は、マラン市の中心部にあります。同校は1952年、法務省による裁判官や検事を養成する学校として開校しました。現在は、ソーシャルワーカー専攻、旅行・観光専攻、ホテル専攻、料理専攻、看護専攻、コンピューターネットワーク専攻の6つの専攻から成り立っています。
この学校の特色は、徹底的な実学主義にあります。ソーシャルワーカー専攻では、理論と実技を学ぶだけでなく、実際に高齢者、身障者、自閉症児などを受け入れて、カウンセリングやリハビリ指導を行っています。旅行・観光専攻では、旅行代理店機能やレンタカー斡旋をします。ホテル専攻は、本物のホテルを運営しています。公立マラン第2実業高校はホテルを経営しているのです。
料理専攻は、授業だけでなく、このホテルで出される料理やスナックを実際に作ります。看護専攻では、乳幼児を預かる保育所を運営しています(次写真)。
コンピューターネットワーク専攻は、同校のホームページや学内ポータルを作るなど校内のIT部門を引き受けるほか、ホテルのオンラインブッキングなども担当しています。
●高校が自前で教育目的のホテルを経営
真似っこではなく、実際にカウンセリングを行ったり、ホテルを経営したり、航空チケットや車のアレンジをしたり、保育所で子どもを預かったり、ワルンで食事を提供したりと、高校生が本物の事業を行っているのです。もちろん、そうした事業で得た資金を学校のために活用していることは言うまでもありません。
インドネシアの大学で、自前のホテルを経営しているところはけっこうあります。マランの国立ブラウィジャヤ大学にも、私立マラン・ムハマディヤ大学にも、市中のホテルと全く遜色のない大学ホテルがあり、AgodaやBooking.comでも予約できます。
公立マラン第2実業高校のホテル(Edotel Senior Malang)の1泊料金(朝食付き)は、スタンダードが25万ルピア、デラックスが30万ルピア、スイートが35万ルピア、ファミリースイートが47.5万ルピア、エクストラベッドが8万ルピア。教育目的のホテルとはいえ、けっこうな安さです。電話での予約は、0341-559449へ。
なお、公立マラン第3実業高校も同様のホテルを持っています。値段はさらに安い様子です。
●有名企業との連携がズラリ
公立マラン第2実業高校のもう一つの特色は、国内外の有名企業と数多く連携事業を行っていることです。校長室に入ると、サムスンがずらり。
サムスンのカリキュラムに基づく冠講座がコンピューターネットワーク専攻にあり、その卒業生がそのままサムスンへ就職できるようになっているとのことでした。サムスン以外にも、オラクル、マイクロソフトなど、有名どころが並びます。ただ、残念ながら、日本企業の名前はありませんでした・・・。
●海外実習をカリキュラムに取り入れる
二つ目の私立ムハマディヤ・シンゴサリ第3実業高校は、インドネシアで2番目に会員の多いイスラム社会団体ムハマディヤが持つ高校です。ムハマディヤは全国に多数の大学や高校などを持ち、教育に力を入れています。
同校は会計、事務、ホテル、マルチメディア、二輪車技術、調理、美容の7つの専攻を持っていますが、特徴的なのは、実地研修をカリキュラムに取り入れ、単位として認めていることです。
現在、ホテル専攻の学生はマラン市内の様々なホテルで実地研修しており、ほとんどのホテルで卒業生が働いているほどです。でも、それにとどまりません。マレーシア、タイ、シンガポールのホテルと提携し、そこへ生徒を送って、海外での実地研修を行っています。
公立マラン第2実業高校も、私立ムハマディヤ第3実業高校も、日本や日系企業との連携をとても望んでいる様子でした。そして、1年ぐらい日本で実地研修できるプログラムを作れないか、と言い寄られました。
翻って、日本の実業高校はどうでしょうか。今回紹介した2校のように、積極的に企業や海外とつながって、生徒を国際標準で使えるようにする意思はあるのでしょうか。機会があれば、日本の実業高校の関係者を、こんなに元気なインドネシアの実業高校へお連れしてみたいところです。どこか、連携してみたい日本の実業高校があれば、いつでもご連絡ください。
(松井和久)
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