アジアの三大大豆発酵文化圏といえば、日本、中国・雲南、そしてインドネシア。インドネシアの大豆発酵食品といえば、もちろんテンペです。テンペは、大豆をテンペ菌で発酵させたもので、インドネシアであれば全国どこでも食べられるとてもポピュラーな食べ物です。
通常は、固められたブロック状の状態で売られています。納豆のように糸を引くことはなく、きちんと発酵しているものは臭いや苦味もありません。
テンペは、炒めてもよし、焼いてもよし、粉をつけて揚げてもよし。インドネシア語版クックパッドには、テンペ料理だけで1万7千以上のレシピが掲載されています(そのサイトはこちら)。ちなみに、日本語版クックパッドでは、249種類が載っています(サイトはこちら)。ただし、熱帯ということで、テンペには雑菌がたくさん付くので、インドネシアでは必ず火を通して食べます。生で食べることはまずありません。
料理の食材としてだけでなく、薄く切って揚げたチップスなどのお菓子の材料としてもポピュラーなのです。もちろんテンペは、体に良い健康食品としても認知されています。
しかし、テンペの原料である大豆は、かつての国産大豆から輸入大豆へとシフトしました。今、インドネシアで食べられているテンペのほとんどが輸入大豆を使っています。インドネシア起源の大豆発酵食品であるテンペは、今では輸入大豆への依存なしには作れなくなってしまっているのです。でも、問題はそれだけではないのです。インドネシアでテンペを食べるということ自体が、日本人の感覚からすると大問題と捉えられかねません。いったい、どういうことなのでしょうか。
Source: http://www.perutgendut.com/read/5-olahan-makanan-dari-tempe/2205
●低所得層の生活を支える大豆食品
インドネシアの栄養摂取を考える上で、大豆食品の役割はとても大きいのです。
以前、スラバヤ市で、1世帯あたり(4〜5人)で1カ月約1万円で生活している世帯を何世帯か訪問調査する機会がありましたが、1週間に1回程度しか肉を食べていない彼らの大事なタンパク源は、テンペと豆腐でした。安い大豆を大量に市中へ供給することが、人々の生活を支えるうえで、極めて重要だということを改めて認識しました。
●アメリカからの輸入大豆への依存
インドネシア政府は、それを輸入で賄ってきました。実は、1990年代半ばの時点では、大豆の国産率は5割程度はあったのです。ところが、1998年の通貨危機を経るなかで、徐々に国産化率は下がり、輸入依存度がどんどん高まっていきました。そして現在、大豆の輸入依存度は約9割に達しています。
輸入大豆は国産大豆より粒が大きく、味も良く、市民の受けも良く、しかも国産大豆よりも価格が安かったので、インドネシア国内の豆腐テンペ業界は原材料を輸入大豆へと変えていきました。表面的には、とくにそれで問題になるようには見えないのですが。
2016年のインドネシアの大豆輸入量は226万1803トンで、その実に99%をアメリカから輸入しています。実はそのほとんどは、遺伝子組み換え大豆であり、政府が認可したうえで輸入しているものです。私たちがインドネシアで食べるテンペや豆腐は、遺伝子組み換え大豆のものを食べているのです。
●遺伝子組み換え大豆からはもう逃れられない
遺伝子組み換え大豆が人体に何らかの影響を及ぼすかどうかは、まだ明確に分かってはいません。しかし、国民の安価なタンパク源を確保するためには、遺伝子組み換えであろうと何であろうと、大量の大豆を輸入し続けなければならないのです。
アメリカからの大豆輸出相手国(2016年)として、インドネシアは、中国、EU、メキシコ、日本に次いで第5位です。インドネシアは、日本とほぼ同じ量の大豆をアメリカから輸入しています。もっとも、中国も日本も、アメリカから遺伝子組み換え大豆を輸入していますが、消費者が直接口にする豆腐のような最終商品に堂々と使われている例はないと思います。
かつて、インドネシアは国産大豆の増産を目指し、それに対して日本も長年にわたって技術協力を続けてきました。しかし、国産有機大豆への国民の関心は一向に高まらず、逆に、安価で味の良いアメリカ産大豆なしにインドネシア期限のテンペは存在し得ない状況となってしまいました。そして、ほとんどの国民は、テンペをインドネシアの伝統食と認知し、大豆がもはやインドネシアの手を離れてしまっていることを自覚せず、気づくこともないという状態になっているのです。
(松井和久)
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