よりどりインドネシア

2017年08月07日号 vol.3【無料全文公開】

塩価格が急騰している背景(松井和久)

2020年01月20日 21:43 by Matsui-Glocal

今、インドネシアの家庭の食卓に影響を与えかねない問題が起きています。塩の値段が急騰しているのです。

もっとも、塩を使うのは、家庭だけではありません。タンパク質だけでなく塩分を取るためにも食べられる干し魚(干物)などの加工食品業者(彼らは零細・中小企業がほとんどなのですが)にとっても、死活問題になっています。

政府は急遽、塩の価格高騰を抑えるために、塩の輸入に踏み切る方針です。たくさんの島々が海に囲まれているインドネシアで、塩が足りないという事態を疑問視する意見もありますが、実は、インドネシアは塩を自給できているわけではなく、かなりの量の塩を輸入してきていました。

いったい、何が起こっているのか。どうして塩の値段が急騰しているのか。以下で、その様子を見ていきます。

南スラウェシ州ジェネポント県の塩田にて(2007年8月)

●主産地の厳しい状況

現在、インドネシアでの塩の産地といえば、東ジャワ州の北海岸やマドゥラ島、南スラウェシ州南岸、東ヌサトゥンガラ州などです。塩の生産は、一般向けは入浜方式の塩田での生産が中心です。かつて、ジャワ島の北海岸を走ると至る所に見られた塩田は、宅地、工業団地、養殖池などへ転換され、経済発展とともに面積を減らしてきましたが、それでもまだ、塩田の役割は終わっていません。

東ジャワ州の塩田からの塩の収穫は乾季の最中である7月末なのですが、ここ数年、乾季なのに雨がかなり降るようになり、せっかくの塩田での塩がダメになってしまうケースが多発しています。7月末時点で、マドゥラ島、トゥバン、ラモンガン、グレシック、スラバヤ、シドアルジョ、パスルアン、プロボリンゴなどの産地から商人が買い付けできず、消費者向けのヨウ素添加塩の価格は、1キロ当たり4000ルピアだったのが、その2.5倍の1万ルピアへ跳ね上がっています。また、通常は10銘柄の塩を用意できるのが、その時点では4銘柄しか調達できないということです。

8月の収穫期に入って、塩の調達に関する状況が少しでも改善されていけるのならいいのですが・・・。

●塩の国内生産と輸入

インドネシア塩利用工業会(Asosiasi Industri Pengguna Garam Indonesia)によると、2017年の国内での塩の需要は423.3万トンで、その内訳は、一般消費者向けが75万トン、残りの348.3万トンが産業用となっています。現時点での国内での生産能力は年間180〜190万トンに過ぎず、残りを輸入に頼っているのです。

ここ数年のデータを見ると、国内生産と輸入が半々程度で来ていますが、2016年の国内生産が大きく減少し、それが現在の価格高騰にも大きな影響を与えていることが考えられます。

表:塩の国内生産と輸入(単位:トン)(出所:Kompas, 29 July 2017)

  2012 2013 2014 2015 2016
国内生産 2,473,716 1,163,607 2,502,891 2,915,461 118,054
輸入 2,314,844 2,020,933 2,251,577 2,100,000 3,000,000

 

政府は、2017年中に消費者向けの塩を22万6000トン輸入する予定を立て、すでに第1弾として、4月までに7万5000トンを輸入しました。ところが今、塩の輸入ができない状況になっています。それは、次のような問題によるものでした。

●国営塩会社(PT. Garam)による不正

塩の輸入は、国営塩会社が行なってきたのですが、その輸入における不正が摘発されたのです。6月10日、国営塩会社のアフマド・ブディオノ社長が輸入許可を悪用したとして警察に逮捕されました。前述の7万5000トンの輸入に関しての不正が発覚したのです。

国営企業として、国営塩会社は国営企業省から消費者向け塩及びその原料の輸入を指示されています。しかし、実際に輸入されたのは、塩化ナトリウム含有率97%以上の産業用粗塩で、輸入したうちの1000トンを400グラム袋に小分けし、国産塩として一般消費者向けに売ったことが明らかにされました。産業用粗塩は一般消費者向けよりも価格が安く、しかも輸入関税がゼロであるため、これによって不正に利益を上げようとした、と見なされたのです。

それでも8月1日、商業省は再度、国営塩会社へ消費者向け塩の輸入を命じました。法律上、塩の輸入ができるのは国営塩会社に限定されているからです。オーストラリアから緊急に7万5000トンを輸入することになります。

こうした不正は、これまでも米や牛肉の輸入などでもその一端が明らかになっていますが、これまで常態化していたと見ることもできると思います。政府対策に真剣さが感じられない理由の一つでもあると考えられ、根本的な対策が求められます。

(松井和久)

 

関連記事

新型コロナワクチンのハラール認証問題(松井和久)

2022年05月23日号 vol.118

大統領を取り巻く国軍幹部の考察(松井和久)

2022年05月07日号 vol.117

パプア州における3州分立の背景を探る:「特別自治」の持つ意味の変化(松井和久)

2022年04月23日号 vol.116

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)