よりどりインドネシア

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新学期、今年も入学仲介業者が暗躍したが・・・(松井和久)

2020年01月18日 22:33 by Matsui-Glocal

インドネシアの学校は、今年は7月17日から新学年が始まりました。毎年この時期になると、大きく報道されるのは、一般にチャロと呼ばれる仲介業者の暗躍ぶりです。子どもを入学させるのに不安な親が、このチャロ、という名の入学仲介業者にお金を払って、確実に入学させる、という慣行がずっと続いてきました。

最近では、インドネシアのマカッサル第21公立高校において、子どもを入学できなかった親たちが学校側へ詰めかけて抗議する事件が起こりました。

新聞報道によると、自分の子どもを入学させたい親たちは、入学仲介業者から1人当たり300万ルピアを支払うよう求められ、支払ったにもかかわらず、入学できなかったことに怒ったのです。彼らの話では、この入学仲介業者は、これまでに数百人をマカッサル第21公立高校へ入学させてきた実績があるので、信用していたのです。抗議を受けた入学仲介業者は、親たちをけしかけて、学校へ押しかけさせるという行動に出ました。

もちろん、政府もこれを黙認し続けているわけではありません。対策も採られてきていますが、こうした慣行が簡単になくなる気配はうかがえません。

それはなぜなのでしょうか。

●新入生受入オンラインの導入

インドネシアの中学校・高校の高校教育では、縁故入学や入学仲介業者の活動を抑え、オープンな形で公正に入学結果を発表するシステムを2008年から導入してきました。新入生受入オンライン(PPDB Online)と名付けられたこのシステムは、これまでに12州、60県・市の教育局に導入されており、南スラウェシ州もその一つです。なお、南スラウェシ州のPPDB OnlineのURLは https://sulsel.siap-ppdb.com/ です。

このシステムでは、まず、入学予定者が登録し、自分の行きたい学校を選び、必要書類をオンライン上で提出して、当該校からの受入可否結果を待ちます。その結果もオンライン上で公表される仕組みで、このシステムならば、入学仲介業者を使って、受入可否結果を途中で捻じ曲げることが難しい、という説明です。

このため、政府としては、入学仲介業者が暗躍する余地はなく、もしまだいるならば、単なる詐欺である、という立場をとっています。

とはいえ、インドネシアでも学校によって人気・不人気があり、大学進学に有利だとされる高校へは希望者が殺到する一方、定員を満たせずに何度も追加募集を繰り返す学校もあります。

それでもなお、巷では、入学仲介業者が暗躍しています。自分の子どもよりも評価点数の低い子どもなのに、親が入学仲介業者に数百万ルピア払ったら入学できた、という噂がまだあちこちで広まっているようです。私の知り合いの南スラウェシ州政府高官によると、7月だけですでに州内で5人の学校長が収賄の疑いで罷免されているようです。

10年前の私の運転手の話

約10年前、私がまだマカッサルにいた頃の話を思い出します。当時、私の運転手の子どもが高校受験で、成績は抜群に良かったにもかかわらず、入学できないと泣きつかれました。話を聞くと、学校側からオリエンテーションへの参加を拒否されたというのです。300万ルピアを払えていなかったためです。すぐに私が工面して支払うと、すぐにオリエンテーションへの参加が認められました。その300万ルピアが正規の学費だったのか、それ以外の資金も含まれていたのかは不明です。

運転手の話によると、受入入学定員のうち、あらかじめ政府高官、国営企業や銀行の幹部の子息向けの枠が設定してあり、何のコネもない一般人の子息は定員の半分弱の席を取り合う状況だということでした。こうしたコネで入る子どもたちよりも、運転手の子どもの成績ははるかに良かったのでした。

●上流層が有利な仕組みを変えるのは至難

公明正大なシステムが導入されたとはいえ、入学仲介業者がいまだに暗躍している背景には、昔ながらの学校と上流層との癒着構造を根強く感じさせる社会のままである、ということもあり得ます。実際、どの子どもを受け入れるかの最終決定権は学校にあるわけで、あらかじめ学校長と上流層との間で話がついていれば、入学仲介業者を介さなくとも、上流層の子息を受け入れさせることは可能です。

でも、その部分は、外野からは全く見えません。そのようなコネのない人々は、やはり入学仲介業者に頼みたくなる心理なのでしょう。

公務員や警察官の採用でも、採用されるためには裏で高額のカネを要求されるということが問題になっています。インターネットなどのシステムを使った、公明正大でオープンなシステムの導入はこれからも進むでしょう。

しかし、それは上流層の既得権益を打ち破って実力本位、下克上の形になるとは限らないかもしれません。そうしたオープンなシステムを導入している者たち自身が上流層に属しており、上流層としての恩恵を受けている今の立場を失うような態度をとるはずはありません。

様々な人々が寄せ集まるジャカルタのような大都市とは違い、マカッサルをはじめとする地方では階層意識は根強く、まだまだ上流層と下流層が交わるような社会にはなっていません。カネもコネもない下流層にとっては、たとえ能力があったとしても、夢や希望を諦めざるを得ない子どもたちがたくさんおり、それが学校教育の現場でも再生産されている状況を覆すのは至難です。

 (松井和久)

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