よりどりインドネシア

2017年07月07日号 vol.1【無料全文公開】

外国人観光客が急激に押し寄せる北スラウェシ州(松井和久)

2020年01月18日 22:22 by Matsui-Glocal
2020年01月18日 22:22 by Matsui-Glocal

中央統計局によると、2017年1~5月の外国人来訪者数は前年同期比20.9%増の545万8,489人でした。インドネシアは観光を重要な外貨獲得源と位置づけ、ジャワ島やバリ島以外の島々へ観光客を誘う戦略をとっています。「よりどりインドネシア」も、インドネシアの色々な地方の情報をどんどん提供していきたいと思っています。

ところで、インドネシアへの入国地のなかで、2017年1~5月で前年同期比約4倍以上という、急激に外国人観光客の増えたところがありました。それは、北スラウェシ州の州都マナドの玄関口であるサムラトゥランギ国際空港でした。

同空港から入国した外国人来訪者数は2017年1~5月で2万9,421人と実数ではまだ少ないですが、前年同期はわずか5,902人だったのです。ちなみに、同空港の2016年通年の外国人来訪者数は5万208人でした。

北スラウェシ州は、スラウェシ島の北端、インドネシアで最もフィリピンに近い、ということは、直線距離で見れば、日本に最も近いところにあります。実際、仮に東京からマナドへ直行便が飛んだとすれば、所要時間は5時間ちょっとです。ちなみに、東京=ジャカルタ間は直行で7時間です。

一体、北スラウェシ州で何が起こっているのでしょうか。どうして急に、前年同期比4倍もの外国人観光客が押し寄せているのでしょうか。

●中国人観光客の激増

急増した外国人来訪者のほとんどは、中国人観光客でした。2016年7月4日から、ライオンエアがマナドと中国各地を直行で結ぶチャーター便を飛ばし始めたのです。マナドからは、上海、武漢、重慶、長沙、深圳、マカオの6都市へチャーター便が飛んでいます。

現状では、ほとんどが中国からやってきて、北スラウェシ州で4泊5日の行程の後、中国へ帰っていく、というパターンで、パッケージツアーの価格は、飛行機代やホテル代込みでわずか1,000万ルピアという、手ごろさが受けているようです。

彼らが訪問する北スラウェシ州の観光地としては、ダイビングスポットとして有名なブナケン島、広大なトンダノ湖、何色もの色が変わるリノウ湖などのほか、マナド市内のショッピングモールで買い物をしたり、新興高級住宅地チトラランドにあるイエズス像をみたり、華人集落を歩いたりしています。

おそらく、食もまた、中国人観光客をひきつける要素だと思われます。マナド市周辺はキリスト教人口が多く、豚肉が日常的に食べられています。海と山が近いので、新鮮な海の幸や山の幸を豊富に使う、香辛料の効いた辛めの料理がとくに重慶や長沙からの観光客に受けているのかもしれません。 

●マナドを東インドネシアへの玄関口に

インドネシア政府は、中国、日本、韓国などの東アジアに最も距離的に近いマナドを東インドネシア各地へのハブとして活用する戦略です。実は、ライオンエアの子会社であるウィングスエアは、2010年に本社をすでにマナドへ移しました。そして、マナドを起点として、東インドネシアの島々とプロペラ機で結ぶ戦略をとってきました。このため、ライオンエアで外国からマナドへ着くと、子会社のウィングスエアへの乗り継ぎがしやすいというメリットがあります。

中国人観光客の激増という事態を踏まえて、他社も追随してきました。スリウィジャヤ・エアもマナドからインドネシア各地へ飛ぶ便を新設・増便しているほか、ガルーダ・インドネシア航空のLCC子会社シティリンクもマナドから中国への直行便を飛ばす計画を明らかにしました。

スラウェシ島では、すでに、南スラウェシ州の州都マカッサルが国内便のハブ空港の役割を果たしています。マナドは、これまで何度も海外との直行便の構想があり、実際、台北とマナドの間に定期便が飛んだこともありました。また、日本との直行便の計画もあり、中部国際空港から台北経由でマナドへ飛ぶという計画もあったのですが、すぐになくなりました。

今のところ、マナドと中国との間は、チャーター便にとどまっており、定期便が飛ぶ状況にはまだなっていません。しかし、マナド経由でインドネシアから中国への観光客が増えてくれば、定期便運航への道が開けてくるかもしれません。 

●中国人観光客歓迎の陰で起こっていること

 中国人観光客の急増で脚光を浴びる北スラウェシ州ですが、同州はかなり前から戦略的に中国を取り込んだ地域開発戦略を採ってきました。工業団地や高速道路の計画づくり、発電所などインフラ建設などで、中国の役割が目立つようになっています。

その結果、州の下の県・市レベルでは、地元政府と中国企業との軋轢が見られるようになってきました。これは何も北スラウェシ州だけでなく、スラウェシの他州でも見られ、一部はかなり深刻な問題となっています。それだけでなく、州都マナドの州政府と県・市政府との間には地域開発に関する微妙な温度差があり、さらに地方政治ボス間の思惑のぶつかりや汚職などの要素が絡んで、なかなか単純には見られない部分があります。

こうした地元と中国企業との軋轢と各アクター間のせめぎあいの様子については、また別稿で書いてみたいと思います。引き続き、ご注目ください。

(松井和久)

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